その恋、まぜるなキケン



「もうすぐ着くぞ」


綾人に声をかけられて初めて、旭は自分が今綾人の運転する車の中にいることを認識した。


まるで夢の中にいるかのように、頭の中がフワフワしている。

 
昨日旭が見つけた死体の身元は未だ不明のままだったが、例の投稿をした男性だということは、防犯カメラの映像で判明した。


しかし残念ながら、あの場所で誰と何があったのか証明できそうなものは今のところ何もない。


大雨のせいで足跡も匂いも、何もかも消えてしまった。


今朝になってこんなに晴れ渡る青空が憎らしく、旭は手で目元を覆った。


セーフハウスのそばに到着し、綾人はブレーキをかけて車を止める。


「真紘、一晩中心配してたと思うぞ」


綾人の視線の先を見ると、家のドアの所で真紘が心配そうな顔でこちらを見ていた。


その姿を見て、旭の心はとてつもなく安らいだ。


旭は車を降りて、のそのそと足を引き摺りながら彼女の方へ歩いた。


——もう全て忘れてしまおうか?


一瞬そんな考えが彼の頭の中をよぎる。


杉本組のことも、将也の死も何もかも。


そしてどこか遠く、海外がいい。


海辺の小さな街。


真紘と2人で新しい生活を始めて、穏やかに暮らせばいい——。
 

唯一の証人だった男はおそらく晃に消され、数々の証拠も失った。


このまま(アイツ)に執着したところで、最後に何が残るのだろうか。


そんなことを考えながら、旭は真紘の所まで辿り着いた。


今にも泣きそうな顔で旭を見上げる彼女の目にはクマができていて、きっと一晩中旭を待っていたことが分かる。


「……なんでこんな上手くいかねぇんだろ。せめて将也さんの死の真相を突き止められればって思ってるだけなのにさ……でもこれも俺の自己満足なのか……ならもう、どうすればいいのか分かんねぇ……」


真紘は虚な目で呟いた旭を包み込むように優しく抱きしめ、しばらくその背中をトントンとし続けた。
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