その恋、まぜるなキケン
「綾人、いる?入るよ?」


真紘は一応声をかけてから病室のカーテンを開けた。


「聞くんだったら返事するまで待ってくれよ。着替え中だったらどうすんだよ」


「……それは失礼しましたっ」


文句を言う綾人と、真面目に謝る真紘。


いきなり緊迫な雰囲気かと思いきや、そんなことは全くなく。


2人はすぐに顔を緩ませた。


そしてそのすぐ後、再びカーテンの外から声がする。


「刑事さん、入るよ」


カーテンが開き、今度は旭が入ってきた。


もちろん、綾人はいいとは言っていない。 


「ほんと、2人揃って困ったカップルだな」


綾人は呆れ、真紘はクスクス笑っている。


「え、俺?」


旭は2人が何の話をしているのかよく分からず、とりあえず真紘の隣に座った。


「リハビリはどう?」


「まぁボチボチかな。でもそろそろ退院はできそうだって言われた」


「そっか……」


真紘は綾人の右半身を見つめた。


あれから3ヶ月。


あの日、杉本晃とその母親の一派は、杉本将也と警察官1名、そしてチンの殺害と殺人幇助(ほうじょ)の疑いで逮捕。


さらに、これまで綾人たちがコツコツと集めていた杉本組に関する証拠を全て使い、組長の杉本克典含むその部下たちもほとんどを逮捕することに成功。


杉本組は解散したも同然となった。


旭がスナックのママから入手した鍵は、東京・高尾山の方にある空き家のものだった。


中には血液の付着したナイフやバット、そして晃が口止め料としてチンに渡していた現金入りの大量の茶封筒が出てきた。


最先端の技術を駆使し、なんとか晃の指紋を検出出来た成果が大きい。


しかし、ハッピーエンドとは言い難い状況だ。


頭部に被弾した綾人はなんとか一命を取り留めたものの、1ヶ月近く目を覚まさなかった。


その上、右手足に麻痺が残ることとなり、現場の刑事としてはもう復帰は望めないそうだ。


「まーひーろ!またそんな顔してる。俺は大丈夫だって!織部のおかげで、ほぼ全員逮捕できて先輩の無念も晴らせた。これでようやく落ち着いた部署に行けるからホッとしてるんだって」


真紘はせっかく見舞いに来ても、いつも苦しそうな表情をする。


その度に綾人は、本当に気にしなくていいのだと言い続けていた。


「そういえば、お前は大丈夫そうなのか?」


「刑事さんのおかげでなんにも……本当に、ありがとうございました」


旭は改まって綾人に頭を下げた。


今回、旭に関しては特に犯罪の証拠は上がっていなかったが、警察側からすればヤクザを1人でも多く逮捕したいというのが本音。


しかし綾人が『織部は逮捕に尽力してくれた』と口添えをしてくれ、今に至る。


「なら良かった」
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