その恋、まぜるなキケン

事故

夜勤明けの朝。


真紘は横断歩道で信号が変わるのを待ちながら、ついこの間まで旭と交わしていたメッセージ画面を、さっきから開いては閉じてを繰り返していた。


もう旭に会うことはできない——。


そう頭では分かっているのに、真紘はまだ彼の連絡先を消せないでいた。


あれから真紘はヤクザについて調べた。


暴力、窃盗、詐欺、薬物、人身売買、そして殺人。自分たちの儲けのためなら法律をも犯す反社会的な存在。


彼らの行いを知れば知るほど、とても旭がそんなことをするとは思えない。


やはりこの全てが悪夢なのではないかとつい現実逃避したくなる。


綾人はあの日以来旭のことには何も触れてこない。


真紘の行動を気にする様子もなく、まるで何事もなかったかのようにいつも通りだった。


それはそれで少し不気味だ。


『もうアイツとは会ってないんだよな?』とか、『アイツの連絡先は消してくれ』とか。


そういうことを言われる方が普通な気がしてしまう。


これではまるで、綾人は真紘と旭が会っていないことを知っているかのようだ。


でも、何もかもなかったことにするのはいいアイデアかもしれない。


旭とは高校の卒業式以来会っていないし、彼がヤクザだということも、綾人(けいさつ)に追われていることも知らなかったことにしよう。


自分にはただ、綾人という愛する婚約者がいて、これからは今まで以上に幸せな日々が待っている。


そのうち2人か3人くらいの子どもに恵まれて、玄関の広い一軒家を建てて、みんなで楽しく暮らすのだ。


子どもたちが巣立ったら、今度は孫たちにも囲まれて、きっとおじいさんとおばあさんになっても仲睦まじく過ごすのだろう。


そんな未来に思いを馳せたら、真紘はほんの少しだけ前向きになれた。


もう消してしまおう——。
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