その恋、まぜるなキケン
「哀れなやつなんですよ。地位に固執して、それでしか存在価値を示す方法を知らないんだと思う。俺だってやめられるもんならやめたいけど、ここで仕事をこなすことでしか自分の価値を見出せないからやるしかなくて。そういうとこ似てるから、アイツのこと全否定はできないっつーか……」


真紘は机の上で亮太の手を包み込むように自分の手を置いた。


「亮太くんがヤクザとしてしか価値がないなんて、そんなことは絶対ないから!だって、少なくとも私は今、亮太くんのおかげでこうして平穏に暮らせてる。だから、そんなこと言わないで……?」


ヤクザになって自分以外誰も信用できなくなった。


自分が他人を信用しないから、もちろん相手からも信用されない。


そういう世界で生きてきた。


それなのに、迷いなく自分のことを肯定してくれる真紘があったかくて眩しくて、羨ましくてちょっと妬ましかった。


「騙されちゃだめっすよ真紘さん!俺こんなトイプードルみたいな顔して、中身はドーベルマンなんで!悪いこともたくさん考えてるんすから!」
 

泣き笑いみたいにハハッと笑いながら、真紘の の手の上に自分の反対の手を重ねた。


「俺からも質問いいっすか?」


「もちろん!」


「……アニキのこと、今でも好きですか?」


それは決して嫌がらせとかではなく、亮太の純粋な疑問だということは分かった。


しかしあまりに想定外の質問で、真紘は言葉に詰まった。
  

まるで真紘の答えを急かすようにちょうど鍋がぐつぐつと音を立て始める。


「その反応は、肯定と捉えちゃいますよ?」


自分自身でも気づいていない、心の奥底に眠る感情までも見抜かれているような気がして、真紘はもう何も言えなかった。


ちょうどいい塩梅に煮えてきたところで、玄関からガチャっと扉が開いた音がした。


「おっ!騎士(ナイト)のお出ましかな」


亮太はパッと手をどけて何事もなかったかのように玄関の様子を見に行った。


真紘は鍋の火を弱めてからその後を追う。


頭の中では亮太からの質問が何度も何度も繰り返し流れていた——。
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