ー野に咲く花の冒険譚ー

「そうか」

「でもね,自分の心でドキドキ出来た事って1度もないことに気がついたの。既にある物語越しに男の子を見ていただけだったの」



いつになく口早なココが,何を言わんとしているのか,僕には分からなかった。

背を叩いてやると,ココは潤む瞳で僕を見つめる。

どきりとして,僕は目を丸くした。

……ココラティエ?



「ジョンが……すき。私,そういう意味でジョンの1番になりたいの。タルトや他の男に,ジョンを渡したくないの。そういう気持ち,迷惑かしら」



苦悩するように顔を歪めて,ココは僕の胸で泣いた。

途方に暮れる僕は,ただクッションの役割を果たすしかない胸が濡れていくのを見る。



「祭りで見た,夫婦のような気持ちのことか? ココ」



ココはふるりと震えた。

その弱い肩を抱きしめてはいけないと悟る。



「すまない,ココラティエ。僕にはそういう感情が,まだ分からない。君の言葉には応えられそうにない。僕は君を,友人として誰よりも大事に思ってる」

「いいの……! いいのよ,ジョン。すまなくなんてない,友達でいいの。今だけでも1番なら,私は嬉しい。友達と呼んでくれて,私の気持ちを受け入れてくれてありがとう」



ココラティエは堰を切ったようにわっと泣き出して,僕はまた,ココを抱きしめた。

いつかのように泣かないでくれとは,言う気になれない。
< 60 / 204 >

この作品をシェア

pagetop