竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

縁の魔女の前語り


 おや、こんなとこにお客さんかい。
 辺鄙なトコに来るなんて、あんた物好きね。

 ちょっと暇ならアタシの昔話に付き合うかい?
 ……ちーっと好奇心に負けて失敗した話じゃ。

 興味無いならお家へ帰りな。
 いい話じゃない。
 だーれも幸せになれなかった、暗い話じゃ。


 そういうの好きかい?
 アンタも変わったヒトだねぇ。
 嫌いじゃないよ。


 じゃ、この話をする前に。
 この世界の前提は分かっておるな?

 なに?分からない?
 あんた何処から来たんえ?
 いわゆる異世界からとかかえ?

 まぁいいわ。説明するよ。

 面倒くさいのは省くよ。話をするにあたって、大事な部分だけだ。
 よく覚えといで。

 この世界には大きく分けて人族と獣人がいる。
 今回はこれだけ覚えてりゃいい。

 で、人族と獣人の違い。
 見てくれもだけど、寿命や力、総数。
 全てが変わってくる。
 人族は文字通り只の人間。男女がいて、赤ん坊で産まれて大体60も過ぎればあちこちガタが来る。80まで生きりゃ大往生じゃ。
 一方の獣人。
 見た目は人族と変わらなかったり耳やら尻尾やらがあったりする。これは何の獣人かによって変わる。
 獣人は寿命が長い。
 大体150以上だな。長生きなんは1000歳とかだ。
 まぁ長生きする種族程総数も少ない。

 違いは分かったかい?
 じゃあ次恋愛面ね。
 今からの話で重要になって来る。

 何でかって?

 人族と獣人の恋愛の話だからじゃよ。

 人族は自分の将来の結婚相手とか付き合う奴とか分からないだろうが、獣人には"番"という存在がいる。
 番とは、魂の片割れとも言うな。
 出会って結ばれると至上の幸福を得られる。
 獣人は一生かけて番探しをするもんじゃ。

 ちなみに獣人の中でも比較的見つかりやすいのもいるが、見つかりにくいのが長寿の竜人。

 竜人は、獣人の中でもトップの実力だ。
 普段は人族に擬態しているが、戦闘となりゃあ鋭い爪に素早い動き。
 だぁれも敵いやしないさ。
 だけど憎まれない。
 竜人は愛情深い。
 一度懐に入れた者には優しい。

 そんな竜人……まぁ獣人に番が見つかったら。

 愛情深い竜人は、安心できる巣………まぁようするに自宅じゃの。
 すぐさまそこに番を連れ帰り蜜月を過ごす。
 蜜月が何かって?

 お前さん箱入り娘かい?
 ……まぁようするに、子作りじゃの。
 疲れたら寝るが基本飲まず喰わず。
 心配しなさんな。蜜月ん時は竜人の生気を与え続けるから喰わんでも死なぬ。
 だから、絶対、邪魔するんじゃあないぞえ?

 最悪。
 その爪の犠牲になっても知らぬよ。

 獣人から番を奪うのは、自らを犠牲にしないといけない事を覚えとくんだね。


 ここまでが前提じゃ。

 お前さん、それでも聞きたいかい?


 ……そうかい…。

 じゃあ、話させて貰おうかの。


 あん時は可哀相な事をした………。
< 1 / 9 >

この作品をシェア

pagetop