真実の愛は嘘で守って・・・。
それからは優李も、俺の意見を尊重してくれたのか、不必要な会話はしてこなくなり、今までのように俺の前で無邪気に笑うこともなくなった。

今までが近すぎただけで、これが本来の主人と従者の距離感。

寂しさを感じるのもきっと今だけだ。

そうやって正しい関係性に戻りつつあったある日、いつもどおり優李がベッドに入ったのを見て部屋を出ようとすると、急に優李が袖を掴んできた。

「どうしました?」

「・・・」

「血、要ります?」

「・・・うん」

少し様子がおかしい優李だが、血が必要とのことなので血をあげたら治るだろうと、ベッドに腰を下ろし、血を吸いやすいよう優李を膝の上に乗せる。

「好きなだけどうぞ」

そう言ったのに、一向に俺の血を吸う気配がない。

「どうした?体調悪い?」

心配になり、ついタメ口が出てしまう。

優李は俯いたまま首を横に振るだけで何も答えない。

「何か、嫌なことでもあった?」

表情が見えなくて、彼女の長く柔らかい髪を耳にかける。

ようやく見えた表情は、今にも泣き出しそうな悲しい顔をしていた。

「楓・・・」

「うん?」

「私、楓にこの前、ちゃんとした主人と従者の関係の話された時、そのとおりだと思って。
だから、私もちゃんとした主人として接しようって頑張って・・・」

「うん」

「これからも、ちゃんとした主人として楓に変な疑い掛からないように頑張るから。
だから最後に1つだけ我が儘、聞いてほしい」

「何?」

堪えきれず流れてきた涙を親指で拭ってやりながら、彼女の我が儘を待つ。

「1回でいいから・・・」

「うん」

「楓と、キスしたい」

「え?」

思考停止する俺とは反対に、優李は感情を吐き出す。

「ひどい我が儘だって分かってる。
望んじゃダメなことだって分かってるけど、1回でいいから。
せめて初めてのキスだけは楓と・・・んっ」

優李に全て言わせてやることもできず、噛みつくように口を塞いだ。

後頭部を抑えて1ミリの隙もできないよう唇を重ね、彼女の苦し気な声ごと吸いあげる。

そして、欲望のまま唇を貪り、優李が酸素を取り入れようと口を開けたところに容赦なく舌をねじ込んだ。

「んんっ・・・」

逃げ惑う舌を強引に絡めて、口内を犯す。

きっと優李が望んでいたのはもっと優しいキスだっただろうけど、それを叶えてやれる余裕なんて俺にはなかった。

何度も夢に見て、その度に絶望して、一生叶うことがないと思っていた優李とのキス。

優李が言ったとおり、きっとこれが最初で最後になる。

これで殺されてもいいから、優李の全てを味わい尽くしたい。

食んで、吸って、絡めて、夢中になって互いを求めあった。

「・・・優李、ごめん」

「なんで、謝るの?」

「優しいキスにしてあげれなくて。あと、まだやめれそうにな・・・んっ」

今度は優李が俺の言葉をキスで遮った。

「んっ、はっ・・・いい。優しくなくていいから、やめないでっ・・・」

涼し気な色の瞳に熱を宿し、言葉と行動で俺を求めてくる。

こんなの、もう止まれるはずがない。

優李をベッドに押し倒し、口だけでなく白くて柔い肌にも手と舌を這わせ、口づけを落とす。

「あっ・・・やぁっ・・・」

可愛く漏れる声がさらに欲情を搔き立て、優しくしたいのにできない。

好き。愛してる。

命も血も心も体も、この先の人生丸ごと全部あげるから、今だけ俺のものになって。

一瞬のこの関係と時間が、少しでも長く続くようにと、俺は夢中になって優李の体中に所有印を残した。
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