ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 しばらくして、ジャンはゆっくりと身体を引きはがすと、チャコを真っ直ぐに見つめてきた。もう先ほどのつらそうな表情はそこにはない。優しい微笑みを浮かべている。

 ジャンの手がチャコのほうへ伸びてきて、そっと両頬を包み込まれた。


「ジャン?」


 見つめ続けるジャンに問いかけるように呼んでみれば、親指で唇を押さえられた。

 いつものようにまたそこを撫でてくれるのだと思った。けれど、予想に反して触れた親指はそのままで、代わりにジャンの顔がゆっくりと近づいてくる。そして、とうとうジャンの唇が親指越しに触れるところまできた。


(っ!? ……)


 ジャンはチャコを見つめ続けている。チャコはその瞳を見て理解した。


 これから二人はキスをするのだと。

 そして、その選択はチャコにゆだねられているのだと。


 だから、チャコはそっとその瞳を閉じた。


 すぐに親指が離れていく。そして、指ではない、もっと柔らかな感触がチャコの唇に降ってきた。


 二人は契約を交わすように、初めてのキスを交わした。

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