ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 チャコは、恵にはちゃんと経緯を話し、それからジャンの家へとやってきた。

 ジャンは一人暮らしをしていた。連れてこられた住居はチャコを探すためだけに借りた部屋らしい。メインの住居は関東にあるそうだ。

 そんなとんでもない事実を知らされて、若干の恐怖を感じないでもなかったが、ジャンが楽しそうだったからチャコは受け入れてしまった。


「そんな緊張しなくて大丈夫だ。おいで?」


 ジャンはベッドの上でチャコを呼び寄せている。そこら辺で寝るからいいと言ったのだが、布団がないからと、ベッドで一緒に寝ることを承諾させられてしまった。



 恐る恐るベッドに上がる。ジャンの隣に座ると肩を抱き寄せられ、思わず体に力が入った。


「チャコ」


 呼ばれてそっとジャンのほうに顔を向けると当たり前のように口づけられた。


「何もしないって言った……」
「うん。キスだけ」
「恥ずかしい……」


 キス自体不慣れなのに、この状況でのそれはチャコにはレベルが高い。


「嫌か?」
「嫌じゃないけど……」
「じゃあ、恥ずかしいのは我慢して。長年の想いが溜まってるんだよ。俺にチャコを愛させろ」


 ジャンはさらっと恥ずかしいことを言ってのける。しゃべっていなかったあの当時も、散々ドキドキさせられたが、言葉でも伝えてくる今、チャコの心臓は本当に止まってしまうのではないかと本気で思った。


「もう……だから、そんなこと言われたら、ドキドキしておかしくなる」
「俺に愛されておかしくなるなら大歓迎だな。ふふっ、かわいい。チャコ?」


 優しく呼びかけられれば、無視なんてできない。チャコは恥ずかしくて外していた視線をもう一度合わせた。すると、あまりにも優しい顔で見つめられたから、チャコも思わず甘い声で呼びかけてしまった。


「ジャン……」
「チャコ、好きだ。大好きだ。チャコ。俺のチャコ」


 ジャンは何度もチャコと呼び、何度も好きだと伝えてくる。そして、その合間に数えきれないほどのキスをした。


 甘くて、甘くて、砂糖漬けになった気分だった。

 次第に頭がぼーっとして、チャコはたくさんの愛を受けながら深い眠りに落ちた。
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