ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「千夜子、おいで?」


 チャコの名前を言うときは、イチャイチャしようの合図だ。最初は恥ずかしくて、顔を赤くしてはガチガチに固まっていたチャコだが、毎日のように与えられれば、自然とチャコも甘い空気を出せるようになっていった。


「千夜子、名前呼んで?」
「悠輝」


 名前呼びが二人のスイッチだ。一気に甘い空気が満ちる。


「うん。千夜子、好きだ」
「悠輝。好き。大好き」
「千夜子、もっとこっちおいで?」


 すでに体をくっつけてはいたが、よりぴったりと密着するようチャコはジャンに抱きついた。


「千夜子。はあー、かわいい。本当たまんねぇ」
「悠輝、好き」


 好きが溢れて止まらない。


「そんなに好き?」
「大好き。悠輝のことも、悠輝が弾くギターも」
「ははっ。お前は本当に俺のギター好きだな」
「うん、大好きだよ。ねぇ、弾いて? 聴きたい」


 チャコは今でもこうしてジャンにギターの演奏をねだる。どれだけ聴いても飽きることはない。聴けば聴くほど好きになっていく。


「しゃーねーなー。何聴きたい?」
「うーん。あの曲!」
「あの曲?」
「あの曲。だって曲名教えてくれないもん」
「ははっ。わかったよ。あの曲な。俺が弾かないと聴けないもんな?」


 チャコはもうとっくの昔にその曲名を知っている。ジャンの演奏に頼らずともその曲を聴けるのだ。でも、チャコはわざと知らないふりをする。だって、チャコが聴きたいのはジャンのギターの音なのだから。


「うん。ジャンが弾いてくれなきゃ聴けないもん。だからね、ジャンのギターで聴かせて?」



~完~
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