ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「え、何?」


 ジャンは片手をチャコのほうに伸ばしてくる。驚いてチャコがのけぞるようにすれば、そのまま手が追いかけてきて、そうしてジャンの指先がチャコの唇に触れた。

 急な接触、それも唇への接触にチャコはパニックに陥った。


「っ!?」


 心臓がドッドッと音を立てている。ジャンはそんなチャコの様子には構わず、唇を指先で二回だけトントンと叩いてからその手を離した。チャコはもう自分が真っ赤になっている自覚がある。何しろ唇を他人に触られるなんて初めての経験だ。しかも触れてきたのは天使だ。恥ずかしくてたまらない。


「なっ、何?」


 どうにか絞りだしたチャコの問いに、ジャンはきらきら星をワンフレーズだけ弾いて返した。そして、もう一度チャコの唇を叩く。あまりに予想外の出来事に思考停止しそうになる。けれど、ジャンが何かを強く望んでいるような顔をしていたから、チャコは止まりそうになる頭をどうにか回転させて考えた。その間にジャンはもう一度きらきら星を弾く。


「……あー……あ? うん? あー、うた?」


 チャコが発したその言葉に、ジャンはにこにことした表情を浮かべて、もう一度チャコの唇を叩き、ギターを構えた。


「歌ってほしい?」


 ジャンは早く早くと言わんばかりの表情で待っている。どうやら正解にたどり着いたようだ。


「いいよ。弾いて! 歌う!」


 ジャンの演奏に合わせて、今度はもっとはっきりと歌った。ギターの音に合わせて歌うのはものすごく楽しい。

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