ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~

2. もっと音を合わせて

 今日も河川敷にやってくれば、ジャンの姿を見つけた。ジャンもちょうど着いたところだったらしい。今まさに座ろうとしている。


「ジャーン! やっほー!」


 チャコはちょっと離れたところから手を振りつつ、大きな声でジャンに呼びかけた。それに気づいたジャンは笑って軽く手を上げてくれる。


「マジ!? 手上げてくれた。めっちゃデレてくれるじゃん」



 チャコは自転車を止めるとジャンの横まで走っていった。


「今日はタイミング一緒だったね」


 いつも通りジャンから一メートル離れた位置に座る。そのままジャンのほうに顔を向ければ、なぜかジャンは立ち上がってしまった。そして、その距離を半分に詰めてくる。びっくりしてジャンを見つめれば、ジャンはにこにこと嬉しそうに微笑んでいる。


(天使の微笑みが近い! もう無理、これ!)


 チャコは両手で顔を覆うと投げ出していた足をバタバタとさせた。

 前回も同じ距離まで迫ってこられたが、あのときは唇を触られたことに動揺していたせいか、意外と平気だった。でも、今日冷静な状態でこの距離に座るのはなかなかに心臓に悪い。チャコは一頻り悶絶してからその手を外した。ジャンは不思議そうにチャコを見ている。


「何でもない。今日もいろいろ聴きたい!」


 ジャンはその要望に応えて今日もいろんな曲を弾いてくれる。曲が終わるたびにジャンがチャコのほうを見て微笑むものだから、チャコはもうずっとドキドキしっぱなしだ。
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