ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「……きれい……」

 中性的で、どこか儚げで、少しあどけなさのある顔立ちの少年だった。

 中学生にも見えるが、きれいな顔立ちだからそう見えるのかもしれない。チャコと同じでもしかしたら高校生かもしれない。それより上ということはおそらくないだろう。


 なんだか少年の周囲には神聖な空気が満ちているような気がして、近づくのが恐れ多い。そのまま少し離れた位置で、ぼーっと少年を眺めていたら、こちらに気づいたらしい少年がチャコに視線を合わせてにこっと微笑んだ。

 天使の微笑みだった。


「っ!? 無理っ! しんじゃう!」


 チャコは胸を押さえてその場に蹲った。あまりにきれいな微笑みがチャコにクリーンヒットしていた。

 その場ではぁはぁと言いながら、浅い呼吸を繰り返す。周りを気にする余裕もなくそうしていれば、視界の外から、人の気配が迫ってくるのがわかった。チャコは恐る恐るそちらに目を向けてみる。すると、先ほど目にした天使の微笑みが間近から攻撃を仕掛けてきた。完全なるオーバーキルだ。


「ひっ!?」


 チャコは咄嗟に持っていた鞄で顔を隠して、その場を凌ぐ。十秒くらいだろうか。そうやって耐えていれば、人の去る気配を感じ、そっと鞄を外して周囲に目を向けてみれば、すでに少年は元の位置に戻っていた。もうチャコには目もくれず、ギターを奏ではじめる。


「……うわー、きれい」


 天使が奏でるギターの音色はとてもとても美しかった。柔らかくて、優しくて、温かくて、それはチャコが知っているものとはまったく違っていた。チャコの中では、歌に合わせてジャカジャカと鳴らすイメージだったそれは、きれいなメロディーを奏でていて、もうそれだけで完成されたものだった。

 少年は天使のような見た目だが、もしかしたら神様かもしれないとチャコは思った。ギターの神様だ。そのくらい少年のギターの音はチャコを惹いて止まない。
< 3 / 185 >

この作品をシェア

pagetop