ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「ジャン?」


 どうしたのかという意味で呼びかければ、目の前に手を差し出された。


「え?」


 ジャンはにこにことしたまま、その姿勢を崩さない。チャコが恐る恐るその手に自分の手を重ねてみれば、グイっと引っ張られて、立ち上がらされた。そして、ジャンは地面に置いていたチャコの鞄を持ち上げるとチャコの手をしっかりと握り、土手を上りはじめた。


(え、何? なんで手つなぐの……はずかしい……)


 男の子からこんなことをされたことなんてなくて、チャコはその顔を赤く染めていた。ジャンはこうやって急に距離を詰めてくることがあるから、チャコはいつもどうしていいかわからなくなる。それでもジャンが構ってくれるのが嬉しくて、結局いつも受け入れてしまうのだ。


 チャコは大人しくジャンに従い土手を上る。チャコの自転車の前まで来るとジャンはそれを指さした。鍵を外せと言っているのだろうと思い、大人しく外してやれば、ジャンはそれを押して歩きはじめてしまった。


「え? 帰るんじゃないの?」


 チャコがそう問えば、おいでおいでと手招きしてくる。こうなったらもう大人しくついていくしかない。チャコは黙ってついていった。

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