ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 ワンコーラスを歌い上げて、二人はその音楽を止めた。誰も何も言わなくて、しばしの静寂が訪れる。


「……いや、驚いた。そうか、そういうことか……ぼうず、お前今まで隠してただろ。わざとチャコちゃんに歌わせなかったな?」


 ジャンは何かを訴えるようにしげさんを見つめ、その目をそらさなかった。


「はあー。まあ、言いたいことはわかった。お前も参加してくれるんだろ?」


 ジャンはその問いに軽く頷いてみせた。


「わかったよ。チャコちゃん、音楽祭に参加してみる気はないかい?」
「音楽祭?」
「あー。今の歌、本当に素晴らしかった。おじさん感動したよ。だから、一緒にこの音楽祭に出てみないか? ボーカリストとして」


 先ほどジャンが持ってきたチラシを渡された。それはこの地域で来月開かれる音楽祭のチラシだった。なんとなく話は見えてきたが、突然のことでまだちゃんとは思考が追いつかない。チャコが戸惑う中、しげさんは山さんと真澄に話を振っていた。


「山さんと真澄はどう思う?」
「いいと思います。今の歌ですっかりチャコちゃんのファンになってしまいました」
「同じく。彼女の声には独特の響きがある。とても繊細に聞こえるのに、芯が通っていて、人の心を打つ魅力がある。ぼうやが隠したくなるのもわかるよ」
「よし。あとは野中だけど、まあ、あいつも賛成するだろう。さて、チャコちゃんどうかな? 俺らの演奏で歌ってみない?」
「えぇ?」
「ごめん、ごめん。突然こんな迫られても戸惑うよな。順を追って話そうか」


 しげさんがこれまでのことをわかりやすく説明してくれた。元々しげさんたちは音楽祭に演奏者として参加予定だったらしい。せっかくだからジャンも一緒に参加しないかと誘っていたところに今日の出来事が起こった。ジャンはチャコにも一緒に参加してほしいと思って連れてきたのだろうと言われた。


「本当に私が出てもいいんですか?」
「あー、いいよ。音楽祭といってもプロが出演するような本格的なものじゃなくて、地域密着型のお祭りだから、心配しなくて大丈夫だよ。それにチャコちゃんが出てくれたら、ぼうずも喜ぶぞ」


 ジャンに目を向ければ、にこっと微笑まれた。しげさんの言葉を肯定しているのだろう。ステージで歌うなんて怖い気もするが、ジャンが望むのならチャコはそれに応えたかった。


「わかりました。よろしくお願いします!」


 こうしてチャコのボーカリストとしての音楽祭への参加が決定した。
< 51 / 185 >

この作品をシェア

pagetop