ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 さらに翌日、チャコは帰りのホームルームが終わるや否や鞄を持って教室を出ようとした。少年がいつ現れるかわからないから、できるだけ早く河川敷に行こうと思ったのだ。


「え!? ちょっとチャコ! 今日一緒に遊ぶんじゃなかったの?」


 帰ろうとするチャコを呼び止めたのは河内恵(かわちめぐみ)だった。彼女は中学からの友人で、高校生になった今でもずっと親しくしている。恵の言う通り、今日はチャコと恵、そして橋本由香(はしもとゆか)の三人で遊ぶ約束をしていた。由香は高校から親しくなった友人だ。

 猪突猛進で勢いのままに突っ走るチャコに、しっかり者で頼りになる恵、そして、人一倍頭がよくて冷静に物事を運ぶ由香。三人の性格はバラバラだが、驚くほどに相性がよくて、今では三人で過ごすのが当たり前になっていた。


「あ、ごめん、忘れてた……ごめんっ! 遊ぶのまた今度でもいい?」


 チャコは手を合わせると恵に向かって思いきり頭を下げた。


「えー……まー、いいけどさー」


 恵は少し唇を尖らせるようにしているが、本気で怒っているわけではない。許してくれたのはわかったから「ごめん」ともう一度謝った。そこに由香もやってくる。恵とのやりとりを見て来たらしい。


「由香もごめん!」
「ううん。別にいいけど。それよりチャコ何かあったの? 昨日も随分と急いでたけど」


 由香に言われて、チャコは急いでいたことを思いだした。


「あ! 急がないとだった! ごめん、話はまた今度!」


 チャコはそれだけ言うと今度こそ教室を出ていった。その姿を見て恵はため息をつく。


「はぁー。なんであの子は、あー落ち着きがないかなー。高校二年生にもなってさー。由香も思わない?」
「うん。でも、そこがかわいいじゃない。本当にイノシシみたい」
「……イノシシかわいいか?」
「ふふっ」


 チャコは二人にそんなことを言われているとは露知らず、今日も思いのままに突っ走る。
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