ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「自由に歌えってこと? 好きな曲を?」


 これが言いたかったことかと確認してみれば、また首を横に振って否定してくる。


「え、違うの?」


 ジャンは少し考える素振りをすると、ノートと鉛筆を取りだした。ジャンがそんなものを持っているとは知らなくて驚いていたら、何やらそこに書きはじめた。書き終えるとチャコに見せてくる。そのノートには、五線が敷かれていて、その上に文字が乗っていた。


『思いのままに』


 チャコがその文字を確認すると、ジャンはまた何かを書いていく。そして次に見せられたノートには新しい文字が書き足されていた。


『チャコの歌を』


 それを見た瞬間、チャコは泣きそうになった。初めてチャコと言ってくれた。文字として書かれただけだが、それでも嬉しかった。ここまでして何かを伝えようとしてくれたことも嬉しくてたまらなかった。

 こぼれそうだった涙をグッとこらえて、チャコは大きな笑顔を作ってはっきりと返事をした。


「思いつくままのメロディーを歌えばいいってことだね。できるかわかんないけど、やってみる!」
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