ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「すごい……音楽ができた……ねぇ、ジャン! すごいよ! 二人の音楽ができた! 楽しいね、これ」


 興奮するチャコにジャンは優しいまなざしを向けてくる。その表情から深い愛情のようなものが伝わってくる気がして、チャコは思わず見惚れてしまった。ジャンのギターの音みたいだ。優しくて、柔らかくて、温かい。そんなまなざしだった。


 チャコがぼーっと見惚れていれば、ジャンはギターを置いてその場に立ち上がり、チャコの手をつかんでグイっと引っ張った。そして、チャコの両手を正面からつかむと、それを引き寄せてジャンの腰に回させた。必然、チャコはジャンに抱きつくような格好になる。


(何これ!?)


 急激に意識が覚醒し、チャコは驚いて離れようとしたが、しっかりと手を押さえられていて動けない。


(無理これ、心臓こわれちゃう……)


 何度か抵抗してみるが、男の力には敵わなかった。もう恥ずかしすぎて声すら上げられない。抵抗しても無駄だとわかったが、さすがにこのまま身を預けることはできなくて、身体に力を入れたまま固まっていた。


 時間にして五分くらいだろうか。チャコには永遠とも思えるような時間が経ち、少しだけ落ち着いて呼吸ができるようになったころに、ジャンの片手が離れ、そっとチャコの頭を撫ではじめた。


 ジャンのぬくもりを感じながらされるその行為は、信じられないくらい心地いい。徐々に身体の力が抜けていくのがわかった。気づけばチャコはジャンにその身を預けて、ジャンから与えられるそれを楽しんでいた。
< 92 / 185 >

この作品をシェア

pagetop