あの日、桜のキミに恋をした

桜色の初恋

Side 由奈


朝、学校へ行く春斗を見送ってから私も自分が出かける準備を始める。


今日は夜勤明けの休みの日。


土曜日だけど春斗は学校の宿泊行事に行っていていない。


先輩と休みが重なっていたから2人でドライブに行く約束をしていた。


今日が終わったら、先輩に今の自分の気持ちを伝える——そう決めていた。


このままズルズルいくのは先輩に失礼だから。


でも、今さら康介に妊娠のことを話す気も、今の私の気持ちを伝えるつもりもない。


いつか彼を過去の人と思えるその時まで、恋愛からは距離を置くつもりだ。


私は迎えの時間より少し早めにマンションの下へ下りた。


一歩前に出て、どっちから来るかなぁと左右を確認すると、そこには康介の姿があった。


たまたま散歩していた、というわけではなさそうだった。


よりによってどうして今日なんだろうと思いながら、彼が歩いてくるのを待つ。


「急にごめん。いなかったら帰ろうと思って……ちょっと話がしたいんだけど、いい?」


「……今日は予定あるからまた今度ね」
 

私は足早に彼の横を通り過ぎた。


「なぁ、今度っていつ?」


後ろから声が聞こえたけれど、私はそのまま振り返らずに進んだ。


そのうちタッタッタッという小走りで近づいてくる足音が聞こえてきて、私も走り始める。


しかし、角を曲がったところで腕を引いて静止させられた。


「由奈ッ!」


「お願いだからもうやめてって!」


手を振り解こうとしながら叫ぶように言うと、彼も対抗するように声を張り上げた。


「なんで妊娠したこと黙ってたんだよ!」


その瞬間私は固まった。


これまでひと言も言及されなかったから、気づかれていない方に賭けていたけれど、やっぱり気づかれていたんだ……。 


こうなってしまっては、もう言い逃れはできそうにない。
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