あの日、桜のキミに恋をした



そして迎えた文化祭当日。


今日は委員の仕事が午前までだから、午後は康介と待ち合わせして一緒に回ることになっていた。


私の仕事は入場口でチケットを確認する担当。


「こんにちはー!チケット確認いたします」


「……あれ?もしかして阿部さん?」


よく顔も見ずにルーチンで声をかけてしまっていたから慌ててお客さんの顔を確認すると、そこには中学の同級生の小林(こばやし)翔太(しょうた)くんが立っていた。


「小林くん!?どうしてうちの文化祭に!?」


「友達の彼女がこの学校の子で、誘われたから付いてきたんだ。確か阿部さんもこの学校だったから会えたらいいなとは思ってたけど、まさかこんなに早く会えるとは!」


小林くんは中学の同級生で、勉強も運動もできるオールラウンダー優等生だった。


でもそれをひけらかすわけでもなく、性格はどちらかと言うと天然。


彼は今、私が第一志望にしていた高校に通っている。


もし私も受かっていれば、今頃はこの制服を着ていたのか〜と彼を眺めながら思った。


「そっか!じゃあその友達カップルと3人で回るの?」


「そこなんだよ!今更だけど、俺ただのお邪魔虫だって気づいてさ。だから1人でぶらぶらしようかな〜なんて考えてたところ」


頭がいいのに、ちょっと抜けたところがあるこの感じ。


中学の頃から変わっていなくてちょっと笑ってしまった。


「じゃあさ、私案内しよっか?もうこの仕事交代だから!」


「え、いいの?友達とかと回らなくて……」


「明日もあるし、大丈夫だよ!」


せっかく文化祭に来てくれたのに、そんな彼をひとりぼっちにするのはさすがに可哀想すぎる。


康介とは明日一緒に回ればいいし、連絡すればきっと分かってくれるはずだ。


私は康介に早速メッセージを送った。


『ごめん康介!中学の友達を案内することになっちゃった……一緒に回るの明日でもいい?』


『オッケー!友達によろしく伝えといて!』


思った通りの返事だった。


〝よろしく伝えといて!〟というのを見て、康介と小林くんが顔を合わせて「よろしく」と握手するところを想像してみた。


2人とも全然タイプが違うし、一体どんな話になるんだろうか。


考えただけでなんだか可笑しかった。


「何ニヤニヤしてるの?」


「あ、ううん!何でもないの!ほら、行こっ!」


康介のことを考えてニヤけている顔を誰かに見られるのはとても恥ずかしい。


私は誤魔化すように小林くんを引っ張って文化祭の案内を始めた。
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