冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「あ、宗くんダメ……! メイクが取れちゃう……」
 
ゆっくりと近づく宗一郎の唇に、日奈子は慌ててストップをかける。

「大丈夫、この後直してもらえばいい。式の前に、新婦のメイクが少し乱れることくらいうちのスタッフは想定しているよ」
 
確かに彼の言う通り、式前のこの時間は両親に結婚の挨拶をする新婦も多いから、涙を流してメイクが落ちることも多い。

だからスタッフは式の直前にメイク直しができるようスタンバイしているのだ。
 
でもそれはアイメイクだ。
 
新郎新婦が同じ控室で過ごしたあと、新婦のリップが落ちていたらなにがあったかなんて一目瞭然だ。

恥ずかしいなんてものじゃない。でも腰に腕を回されて顎を優しく掴まれては、なす術もなかった。

「で、でも……!」

「ただでさえ、日奈子が可愛くてどうにかなってしまいそうだったのにそんなことを言っておいて無事で済むはずがないろう? 今鎮めておいてくれないと、誓いのキスの時に、皆の前で発散させてしまいそうだ」

「なっ……!」

「日奈子、愛してるよ」
 
最後の言葉が後押しになり、彼の胸を押していた日奈子の手の力が抜けた。

「ん……」
 
重なり合う唇と、自分を包む温もりに日奈子の胸は温かな想いでいっぱいになっていく。
 
許されないと思っていた彼への恋心に長く苦しめられてきた。その日々すら、今は愛おしくてたまらないくらいだった。

どうやっても消せなかった想いは、もう日奈子の一部なのだ。きっと生涯変わらない。そんな確かな想いを胸に、日奈子はゆっくりと目を閉じた。

< 200 / 201 >

この作品をシェア

pagetop