猛虎の襲撃から、逃れられません!

昼休み。
教室に朋希を残し、虎太郎は南棟のテラスへと向かう。

「あのっ、津田先輩」
「……はい」
「これ、良かったら貰って下さい」
「え…」

南棟へと続く長廊下の手前で、北棟に通う女子生徒からラッピングされた物を差し出された。

こういうことはたまにある。
物を渡されるだけでなく、告白されることも何度か。
けれど、虎太郎の返す言葉は決まっている。

「せっかく用意して貰ったのに、ごめんね。こういうのは好きな人からしか受け取れないから」
「っっ……、南棟の3年の先輩と付き合ってるって本当ですか?」
「ごめん、その質問には答えられない。周りをよく見てごらん。俺よりカッコよくていい奴は腐るほどいるから」

虎太郎は名も知らぬ女子生徒に会釈し、南棟へと先を急ぐ。

**

虎太郎が南棟のテラスへと通い始めて2カ月が経とうとしている10月下旬。
2学期の中間試験3日目で、昼食をとりながら教科書を捲る先輩3人を虎太郎は無言で見つめている。

「津田くん、つまんないでしょ。北棟のテラスで食べてもいいんだからね?」
「俺のことは気にしなくて平気っすよ」

北島先輩が気を遣って声をかけて来た。
雫先輩は天野先輩の質問に答えている。

勉強している雫先輩、綺麗だなぁ。
空手をしていた先輩も凛々しくて好きだったけど、真剣に勉強している先輩も見てて飽きない。

この人は、周りを惹きつける何かを持ってるのだろう。

「津田くんは復習しなくて大丈夫?分からない所があるなら、教えられるよ?」
「自分は大丈夫っす。これでも、成績は結構いい方なんで」
「そうなの?」
「見えないっすよね」

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