猛虎の襲撃から、逃れられません!
⑩ここは、俺だけの場所だから

新年を迎えて、あっという間に大学入学共通テストの当日を迎えた。

「雫、忘れ物ない?」
「うん、何度も確認したから大丈夫」
「ベストを尽くせばいいんだからね!」
「分かってるって」

うちの親は昔から『頑張って』とは殆ど言わない。
何でも器用にこなしてきたというのもあるけれど。
親なりに気を遣って言ってくれているのは分かる。

一人娘に気負わせないための励ましの言葉。
結果に囚われず、今ある力を出し切れればそれでいいと。

両親に見送られ、自宅を後にした。



駅の改札口を抜けた先に、彼がいた。
朝一番で励ましメールを貰ってたのに。
いつもより1時間くらい早い時間帯なのに。

「どうしたの?」
「先輩の顔見て、送り出したかったんで」
「……ありがと」

クリスマスに彼に気持ちを伝えてから、二人の関係が物凄く進展したというわけじゃない。
そりゃあ、キスはしたけれど。
あの日はちゃんと……?
キス止まりで過ごした。

無事に受験が終わるまで。
無事に志望校の合格通知が貰えるまでは、しっかりと一線は守ってくれると約束してくれた彼。

年末年始に何度か、ジョギング中だと言いながら、自宅に顔を見せに来てくれたけど。
別にそれ以外は初詣に合格祈願に行ったくらいだ。

「先輩なら大丈夫っすよ」

にかっと向ける笑顔が眩しくて。
元旦に初日の出を拝めたくらい縁起がいいと思えてくる。

「行って来るね」
「ファイトっす!」
「うん」

沿線が違うからその場で彼と別れた。

普段使わないホーム。
スマホの時計と睨めっこしていると、ちーちゃんとさっちゃんが一緒に現れた。

「おはよ、雫」
「おはよ~、ちーちゃん、さっちゃん」
「雫、早いね」

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