猛虎の襲撃から、逃れられません!

「不安にさせるような真似は絶対にしないっす」
「……ん」
「初日から、あんま変なこと言わないで下さいっ。マジでビビるんで」
「ごめん」

住宅地の一角にある空き地の前。
真冬の19時半過ぎだから、誰も散歩なんてしてなくて。
彼の息づかいだけが耳に届く。

「先輩」

私はダウンジャケットだし、彼はアーミータイプのジャンパーなのに。
お互いの鼓動がはっきりと分かるくらい密着してる。

今顔を上げたら、キスされるって分かってるのに。
それを拒みたいとも思わないし、むしろ、して欲しいとさえ思ってしまっている。

彼の呼びかけに応えるように、ゆっくりと顔を持ち上げる。
すると、外灯に照らされた彼の顔が僅かに傾いて近づいて来た。

人生2度目のキスは、すごく冷たいと感じたのに。
それも一瞬の出来事で。
すぐにお互いの熱に甘く蕩けていく。

はむはむと何度か啄められて、最後に甘噛みされた。

二次元の世界でしか知り得なかったそれらが、ちゃんと現実の世界にも実在した。
DVDや漫画に出てくるような可愛いヒロインみたいにできただろうか?

どうやって息をしたのかさえ、憶えてないのに。
キスが上手くできたかどうかなんて、分かるはずもない。

「先輩、キス上手いっすね」
「ふぇっ…?」
「俺が初めてじゃないんすね」
「……」

彼の言葉に物凄い衝撃を受けた。
えっ、私、キスが上手いの?
ってか、初彼なんだから、あなたが初めてに決まってるじゃない!
……世の中には、付き合ってなくてもする人もいるのか。

ぐるぐると考えたこともないことが次から次へと。
切なそうな彼の顔が視界に入って、ハッと我に返った。

「初めてだよっ、津田くんが初彼だし、この間のが初めてだったんだから」

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