朝1番に福と富と寿を起こして
身体だけではなく心まで温かくなってきた、なんて思っていた私には衝撃的で・・・。



「先生、辛い・・・。」



病院の待合室、私の隣に座る先生に寄りかかりながら弱音を吐く。



「そうだよな、39度も熱があればそれは辛いだろうな。」



先生が聞いたこともないような優しい優しい声を出してきて、熱で心身ともに弱っているからか先生にもっと寄りかかる。
そしたら、先生が私の身体にまた手を回してくれた。



「先生、仕事大丈夫・・・?」



「午前中はアポも入ってないから大丈夫。
事務所にスタッフもめちゃくちゃ増やしたからな、繁忙期以外は余裕を持って回せてる。」



「面接に同席したってカヤから聞いたから、それは大丈夫だね・・・。」



「まあな、だから病人は心配すんな。」



「病人には口が良いんだね。
それと外面も良い。」



「外面は大切だろ。」



「友達とかいるの?大丈夫?」



「数は少ないけどいる。
でも、友達よりなによりも・・・」



言葉を切った先生が、私の身体に回していた手に力を込めた。



「俺には福と富と寿がいればそれでいい。」



その言葉には一瞬だけ固まり、でもすぐに口を開いた。



「それ、私じゃん。」



重い口を動かしながら声を出した時、待合室に私の名前を呼ぶ声が響いた。



「福富さん、福富千寿子さん。」



私が立ち上がるのと同時に先生も立ち上がり、私の身体に回す手にもっともっと力を込めてきた。



そして・・・



「そうだよ、俺には千寿子がいればそれでいい。
俺は朝1番が大好きなんだよ。」



力強い声でそう言ってきた。



福富千寿子という名前の私に。



“朝1番”という名前の定食屋の娘であった私に。



そんなことを言ってきた。
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