朝1番に福と富と寿を起こして
高校時代にカヤから聞いていた印象的な言葉を先生に教えると、先生は無言になった。



「先生がそのおじいちゃんの孫だったんだね。
当時はよく分からなかったけど、孫の先生を育ててくれた素敵なおじいちゃんだったんだね。」



「ジサマだけじゃない。」



先生が力強い声を出した。
それから私に右手を差し出してきてくれ、私は先生の右手に自分の右手を思わず重ねた。



それから怠い身体をゆっくりと地面に降ろす。



それでも先生は私の右手から手を離さなくて、むしろ私の右手を握る手に力を込めてきた。



不思議に思い先生を見上げると、先生は優しい顔で、でも熱さの込めたような目で私のことを見下ろしている。



「バサマも素敵なおばあちゃんだった。」



「そうだったんだ?」



「うん、お前の顔によく似た顔をした、素敵なバサマだった。
俺はバサマのことが大好きだった。」



その言葉には固まり、重くなってきた口を動かしながら先生の顔から視線を逸らした。



「そういえば、高校に入学をしてすぐにカヤからも言われたことがある。
“お姉ちゃんの顔によく似てる”って、それがキッカケで話し掛けてくれて、“一緒に生徒会に入らない?”って言われたんだよね。」



昔の出来事を思い出しながら、先生の右手から自分の右手を抜き取った。



「病院への付き添いまでありがとうございました。
ここから5分で家なのでここで大丈夫です。」



そう言って先生を見ることなく歩きだそうとした。



そしたら・・・



先生からまた右手を掴まれた。



「お前の実家、ボロボロだし防犯上もめちゃくちゃ不安な造りをしてるから、あそこに1人じゃ帰せねーから。」



そんなことを言われて・・・



「お前のせいで俺は昨日一睡も出来なかったんだからな!!」



めちゃくちゃ不機嫌な先生がフラフラの私を強引に歩かせ、先生が住むマンションの中に入れてきた。
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