朝1番に福と富と寿を起こして
翌朝



「朝人!起きろ!!!」



ジサマが俺の掛け布団を剥ぎ取り叩き起こしてくる。
布団の近くに置かれた目覚まし時計を見ると5時だった。
保育園の頃は6時に起きていたのに小学校に入ってからジサマは俺のことを5時に起こすようになった。



「まだ眠い・・・。」



「昨日遅くまで起きてたんだろ!?」



「起きてない・・・9時には寝た・・・。」



「ガキなんだから7時には寝ろ!!」



「それは早すぎだろ・・・。」



「早くねーよ!!!
朝1番に行かなきゃいけねーんだから毎朝5時には起きるようにしておけ!!
朝1番を好きになれ、朝!!!!」



ジサマがそう言って強引に俺の腕を引いて起こしてきた。



「朝1番には福と富と寿がいる!!
福と富と寿に会う為に朝1番を好きになれ!!
明日も朝1番に行く、福と富と寿に会う為に!!」



ジサマが毎朝毎朝言うことを今日も俺に言ってくる。



眠くて回らない頭をほんの少しだけ回しながら言った。



「“明日”じゃなくて“今日”じゃねーの・・・?」



「“明日”なんだよ!!
何でか分かんねーけど“明日”なんだよ!!」



ジサマがよく分からないことを言って、今日も俺のことを叩き起こしてくる。
朝1番に福と富と寿に会う為に。



のそのそと起き上がりジサマに腕を引かれながらリビングへと歩いた。
ちゃぶ台にはバサマが作ってくれた朝飯が今日も並んでいる。



「何時に起きてるんだよ・・・。
バサマのことをもっと寝かせろよ・・・。」



「老人は早寝早起きだから朝人は気にしなくていいの。
それに朝人の為でもあるから。
朝が1番大切。
その日1日がどんな日になるのかが朝の過ごし方で決まる。
バサマの朝ご飯をしっかり食べてパワーをつけてね。」



「うん・・・いただきます・・・。」



両手を合わせてから箸を持ち、それからバサマが作ってくれた味噌汁を一口だけ飲んだ。



「・・・うっっっま!!!!」



バサマが作るご飯を食べると毎朝目が覚める。
旨すぎて目が覚める感覚だった。
特に手の込んでいないような料理、ほんの少しだけ味付けがされているだけ。



「バサマの料理を食ってると給食が食えねーから!!
無理して食ってるけどさ~!!」



「ジサマには長生きしてもらわないといけないからね。
朝人が大きくなって幸せになるまで、ジサマの残りの人生を出来るだけ長くしないと。」



バサマの言葉にジサマが大きく笑い、隣に座る俺の頭を両手でワシャワシャと撫でてきた。



「お前もだぞ!朝人!!
早寝早起きをして飯もしっかり食べて運動もちゃんとする!!
そうやって強い身体、長生き出来る身体を作れ!!
酒もタバコも絶対に禁止!!
不摂生なことはしねーで長生きをする!!
苦手な朝も克服して少しでもしっかりとした身体と頭のまま長生きをする!!」



「毎日聞いてるって。」



「毎日でも言うからな!!
朝人が好きな女と1日でも長く一緒にいられるように長生きしろよ!!」



「好きな女の子なんて特にいないしな~。」



「お前は俺に似て彼女を切らさない男になるよ、途中までは。
彼女とはちゃんと子どもが出来ないようにしろよ!!」



「今からそんな話すんなよ。」



「するだろ!!
朝人が大人になる頃には俺はいねーんだから!!」



それを聞き、俺はどうしようもなく苦しくなった。



「あ、天国じゃねーぞ?老人ホームな?」



「・・・ビビらせるなよ!!!」



「俺は長生きするから安心しろ!!
朝人が幸せになる姿を見届けてやるから!!
その為に俺自身もガキの頃からこの生活を続けてきてる!!」



ジサマは神社の神主だった。
今でもこの家にジサマを訪ねてくる人がいる。
その人達はジサマのことを“神様”と呼んでいた。



ジサマには不思議な力がある。
それをどう説明したら良いのかは分からないけど、とにかくジサマは未来が分かるような感じで。



俺にとっては普通のジサマだけど、他の人からするとそれは普通ではないらしい。



そんなことを考えながらバサマが作ってくれた旨い飯を食っていると、ジサマから強すぎる視線を感じた。



見てみるとやっぱりこの目をしている。
強く光るこの目をして俺のことを見詰めている。



今度は何を言われるのかと思っていると・・・



「彼女じゃない女の子とは子ども作ってもいいんじゃねーか?」



「食事中に下ネタかよ!!!」



何故かガキの頃からやけに性教育というものをされていた。
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