鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
愛する女性に身に着けて欲しくて

深々と足先が冷え込む一月中旬。
新しい年を迎え、Bellissimoでは次々と新しい企画がスタートし、各部門で矢継ぎ早に売り上げを競っているような状態。
伊織はメインデザイナーとして多忙なうえ、全国展開している自社ブランド店舗のキャンペーンの営業廻りで目まぐるしい日々を過ごしている。

そんなある日の昼過ぎ。
『今日、十六時に三井が迎えに行くから』と、久々に伊織から栞那にメールが送られて来た。

仕事なのか、デートなのかすら分からない。
けれど、三井さんが迎えに来るということは、何かしらあるのかな?だなんて一瞬脳を過る。

「みんな、ごめんね」
「大丈夫ですよ~」
「たまにはゆっくりして来て下さい」
「じゃあ、お先に」
「お疲れ様でした~」

十八時までが就業時間だから、必然的に早退する旨を部下に伝え、十六時過ぎに帰り支度を済ませて部署を後にする。
すると、エレベーターの前に三井さんがいた。

「遅くなってすみません、お疲れ様です」
「お疲れ様です。では、参りましょう」
「あの、三井さん」
「はい」
「どこに行くんですか?」
「社長の元へですが」
「……あ、そうですよね」

にこっと微笑む三井さん。
普段、冷徹とも思えるほどクールだから、これが営業スマイルなのか、好意的な微笑みなのかすら区別がつかない。

栞那は三井の運転する車で、社屋を後にした。



「三井さん、このお店は?」
「こちらは弊社と提携するブランドのショップになります。社長のために、少々着飾って頂けますか?」
「……っっ」

氷の微笑とでもいうのか。
有無を言わさぬ圧に負けた。
拒否権は最初から用意されてないようで、彼が言うように着飾る以外に術はないということらしい。

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