鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
人生は倖せを繋ぎ合わせたもの

伊織と交際するようになって約三週間。
プロポーズを貰って半月が経った。

仕事が多忙な伊織と二度目の甘い夜を過ごした。

「私って、いっくんの初恋の人なの?」
「え、それ今聞く?」
「だって、ずっと気になってたんだもん」

深夜二時。
伊織の腕の中で久しぶりにゆっくりと語らう。
伊織の手は栞那の頬に添えられ、そっと優しく親指が頬を撫でる。

「そうだよ。気付いたのは、栞那と再会した、少し後だったけどな」
「……傷だらけだったあの時?」
「あぁ、あの時は祖父が亡くなって凄く荒れてて。こんな姿、二度と見せたくないなぁって思ったんだ」
「私もあの時、父親の言いなりで好きでもないピアノに通わされてて、凄く生き辛かったの。女の子がパソコンや機械に夢中になるのはタブー視されてた時代だし」
「そうだったんだ」
「高校受験する時に凄く父親と喧嘩したの。何度も家出して、一年かけて説得して。あの当時からかな、父親との距離が出来たのは。母親はずっと味方でいてくれたけど、母親もずっと父親のいいなりみたいな感じだったから、結局母親も爆発しちゃって」
「……そうか」
「恋愛とか友達付き合いよりもパソコン優先して来たし、お洒落とかも後回しにして来たから」
「別にいいんじゃないか。女だからとか枠組に嵌めるようなこと、俺は求めてないよ。一人の人間として、俺は栞那が必要だから」
「……ありがとう。やっぱり、いっくんだ」
「ん?」
「あの木の下でね、お爺さんと話してるのを聞いたことがあって。“人として、生きてるだけで幸せだよね” って言ってたの。子供ながらにその言葉がずっと心に残ってた」

明日をも知れぬという過去があるから。
今という時を過ごせるだけで、伊織は幸せを噛みしめている。

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