鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
終わりにしよう

桃の花が色づき始めた三月上旬。
Bellissimoでは年度末決算月ということもあり、システム変更や年度末売り尽くしセールなど、栞那の所属しているシステム部は鬼のような仕事量に追われていた。

「葛本さん、さっき頼んだビルド(バグ調査や実行ファイルに変換等の一連の流れのこと)終わった?」
「あと少しです」

ミーティングから戻って来た栞那は、部屋に入ったと同時にSEの葛本に声をかけた。

「左のPC、ログ吐き出されてるから、一時間以内のアクセスログと突合(とつごう)(データを突き合わせること)してみて」
「え?あ、はいっ」

SEの杉山のデスクの後ろを通り過ぎながら、瞬時にモニターをチェックした栞那。
ソースコードを入力するのも鬼速だし、動体視力が桁外れにいい。

「新年度用のボール(タスクのこと。担当→SE→デザイン→ディレクター→SE→統括の順)、今誰が持ってる?」

栞那は進み具合をチェックするため、部署内に通るように声を張る。

「今、私が持ってます!午後イチで山下さんにパス予定です」
「俺、十三時半から会議入ってるんで、データ飛ばしたらメールして」
「了解です」

ディレクターの国分が栞那に返答すると、山下がすぐさまそれに応える。
顔はパソコンモニターに向かったままなのに、作業しながら会話も拾い上げれるほど、栞那の部下は結構優秀だ。

「山下くん、ごめん、忙しいところ。バッファ(余力)あったら、穴あけ(正式なテスト前に一回疎通をはかること)したいんだけど。キャッチアップ(遅れを回収)あるならフォローするから遠慮なく言って」
「はい」

自分のデスクに戻ると、机上に依頼書が幾つも置かれていた。
栞那の不在時に他部署の人が勝手に置いて行ったようだ。
それをすぐさまチェックし、部下に振り分ける。
もちろん、手間のかかる作業やリードタイムが極端に短い依頼は自発的に栞那が請け負っている。

< 116 / 156 >

この作品をシェア

pagetop