鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
永遠なる迸る視線を

半月ぶりに見た彼は相変わらずカッコよくて。
ほんのりと甘いムスクの香りがふわっと鼻腔を掠め、否応なしに胸がトクンと高鳴ってしまった。

「何で、俺を見ようとしないの?」
「………って」
「え?」
「………いっくんが言ったんじゃない。………終わりにしようって」
「…………あ、いや、そういう意味じゃなくて」

振り返ったら涙が零れそうで。
彼にしがみ付きたいのに、それが出来ない。
これ以上、惨めになりたくない。

及川先輩に酷いこと言われても大丈夫だったのに。
いっくんに言われた一言が、こんなにも苦しく胸を締め付けるだなんて。
……自分が思っている以上に、彼を好きになっていたんだ。

「ッ?!」
「……栞那」

ぎゅっと背後から抱き締められた。
耳元に落とされた彼の声が、あまりにも甘くて。
切なく聞こえるはずなのに、何故か楽しそうに、嬉しそうに聞こえるのが物凄く腹立って。

抱き締められる腕を無理やりにでも剥がしたいのに。
それが、できずにいる。
―――離して欲しくないんだ。
今離されたら、もう二度と抱き締めて貰えない気がして。

「今から、区役所に行こう」
「………へ?」
「婚姻届を出しに行こうって言ってんだよ」
「……意味分かんない」
「『終わりにしよう』ってのは、もう恋人の関係を終わりにしようっていう意味だよ」
「…………へ?」
「もう一日たりとも離れていたくないんだ」
「……っっ」

必死に堪えていた涙が、彼の言葉でいとも簡単に溢れ出す。

「にっ……ほんごのっ、使い方、間違ってるからッ!」
「ごめん」
「……いっくんのバカっ」

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