鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される

逸らすことなく熟視されている視線から逃れられず、ハッと息を呑む。

『Bellissimo』の創設者である社長・久宝(くぼう) 伊織(いおり) 三十一歳。
キリっとした美眉にくっきりの二重瞼、色気のある薄い唇にスッと通った鼻梁。
シャープな顔立ちに合うようにさらりとした清潔感のある髪。
百八十センチを超える長身と引き締まった体、どこから見てもモテ男の代表とも言えるその容姿。
若手青年実業家が特集で組まれた雑誌のイケメン投票で、ぶっちぎりで一位になるほどのイケメンだ。

メディアには美しすぎるほどの微笑みを披露し、優しい雰囲気のイメージだが、社内で笑顔を見た者は未だにいないらしい。
仕事においては常にクオリティ重視で、一切妥協を許さない。
中途半端な仕上げだったり納期が遅れようものなら、阿修羅のごとく鬼の形相で所構わず鬼雷が落ちる。

その社長の視線が今、栞那に注がれている。
本当に蛇に睨まれた蛙状態の栞那は、微動だにできずにその場に立ち尽くす。

すると、スッと持ち上がった人差し指が、くるりと円を描いた。
どういう意味だろう?
まさか、ここでくるりと回れと?

小会議室の出入り口は一箇所。
今社長が立っている後ろにあるドアしかない。
部屋の中にはミーティング用の机と椅子があるだけ。
逃げも隠れもできない、万事休すの状態だ。

既に凝視されている状態で今さら隠しようがないが、せめてもの抵抗を試みようと胸元を隠そうとした、その時。
美顔の眉間に深いしわが刻まれ、明らかに苛々とした表情を浮かべ、再び人差し指がくるりと円を描いた。

「ゆっくりターンしろ」

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