鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「大丈夫か?」
「……はい」

少し飲み過ぎたかも……。
お料理が美味しすぎて、ついついグラス三杯も飲んでしまった。

意識はあるし、しっかりと歩けてる。
ただ、体が火照ってしまって……。

「これを少し当てておけ」
「……すみません」

冷たいおしぼりを手渡された。
シャリっと冷えひえに凍っている。
濡らしたおしぼりを冷凍庫に入れておいてくれたようだ。

「冷たい……気持ちいいです」

熱を取るために頬に当てていると、体の右側が僅かに傾いた。
おしぼりを頬から離し、視線を横に向けると、頬杖をつきながら妖艶な眼差しを向けて来る。

「泊ってくか?」
「……へ?」

今、何て仰いました?
空耳かと思い、瞬きを数回してみる。
すると。

「俺も酒が入ってるし、明日は休みだし、な?」

―――な?って、何?
え、……これは誘われてる?

昼間の“嫉妬”云々もそうだけど、ここ最近の甘い雰囲気も何となく当て嵌まる。

「私、……軽い女に見えますか?」
「いや」
「じゃあ……」
「俺がお前ともう少し一緒にいたいだけ」
「っ…」

キザすぎる。
例え酔っていたとしても、こんな風に色気のある視線を向けながら囁かれることに慣れてない。

「恋人でもなんでもないのに…」

恋愛経験はそんなに多くない。
元々そんなに願望も高い方じゃなかったし、モテる要素も無かった。

いつでも何もない所からつくり出す感性のようなものを感じたかっただけ。
頑張れば頑張った分だけ、結果として形が残ると思い込んでいたから。
だから、不確かな恋愛よりも現実味のあるシステム工学に惹かれた。


「じゃあ、恋人になるか?」
「………え?」

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