鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「部長、まだ上がられないんですか?」
「あ、……ん、もう少し。みんなは上がっていいからね」
「……じゃあ、お先に失礼します」
「お先でーす」
「すみません、お疲れさまでした~」
「みんな気を付けて帰ってね~」

二十時半を回り、部署の子達が次々と退社する。
山下くんと近藤さん、国分さんがデスクを後にした。
出先から直帰するメンバー、派遣社員は既に退社していて、デスクに残ったのは栞那一人。

急ぎの仕事があるわけではない。
派遣社員が入ったことで、だいぶ仕事量も減った。
とはいえ、メインSEというだけでなく、統括する責任があるため、栞那の仕事量は他の社員に比べたら雲泥の差。

栞那は秘書課のメインプログラムを立ち上げ、午前中に修正報告した箇所の稼働具合を遠隔でチェックする。

「問題はなさそうね」

追加で管理機能を増やすことによって、他の機能に支障を来すのは問題外。
実際、テスト運転で何度も確認していても、実際実装してから問題が起こることもある。

国分さんが淹れてくれた珈琲を口にしながら、社長の活動記録をマウスでクリックする。

二週間ぶりに見た社長は、写真ではなく動画だった。
それも、ブロンドヘアの物凄くスレンダーな美女と談笑しながら、ワイングラスを傾ける正装姿の社長。

絵に描いたような社交界のような、華やかなパーティーのような。
栞那の目には、キラキラと輝いているように見えた。

「……どこかの令嬢とかなんだろうなぁ」

パソコンのモニターに指先を滑らせ、社長のシルエットをなぞっていた、その時。

「そんなに寂しかったのか?」
「………え?」

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