「好き」と言わない選択肢
「そんな声をださなくてもいいだろ…… なんだよ、その偉そうに落ち込んだ顔は?」

「え、偉そうってなんですか? 落ち込むのは当たり前じゃないですか…… 皆に迷惑んばかりかけてるし」

「そうだな。ほんと大変だよ」

「……」

 自分で分かっていても、いざはっきり言われるとますます凹む。


「じゃあ、橋本はこの企画が通らなきゃよかったとか思っているわけ?」

「そんな事あるわけないじゃないですか! ずっと、ずっとやりたかった仕事なんですから!」

 思わず、彼の目を睨むように見てしまった。


「なら、遠慮なんてするな。橋本は今まで他の奴の企画の仕事を、迷惑だと思ってやってきたのか?」

「まさか! 勉強にもなるし、任される事も嬉しいし、それにこの仕事が好きだから……」


「橋本がそうやって仕事をしてきた事が、皆に伝わっているんだよ。多分、迷惑だなんて思っているやつはこのチームには居ないよ。皆好きでやってんだよ」

「でも、まだ商品名を決められないなんて……」

 商品名にインパクトが無いと言われたまま企画が進み、未だに決まっていない。

「皆と一緒にやる事やっていたら、そのうち降ってくるだろ。まだ、時間はある。しかし、ここはいいす隠れ場所だな」

「私の大事な場所なんで、取らないで下さい」

「はあ? 会社の物だろ。でも、まさかここで聞かれていいたなんてな……」


 彼は、ちょっと悔しそうな顔を向けた。
 そんな顔をされても、あんな賭けをしていた人達が悪い。

 でも……

「仕事にいい加減な人と言った事は謝ります。ごめんなさい」

「えっ。ああ、そこか……」

「何か、他にも?」

「まあ、取り合えずいいか。俺の事、信用してくれたって事だよな?」

「ええ。色々と助けてもらいましたし……」

「あははっ。そりゃそうだ。とにかくもうひと頑張りするぞ」

 クールな彼が声を出して笑うなんて、あまり想像できなかった。私の頭を大きな手がポンと撫でると、空き缶をゴミ箱に捨てて去って行った。

 なんだか、焦っていた気持ちが少し楽になった気がする。その変わり、胸の奥がキュンとなったまま消えてくれなかった。
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