幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


 ふゆの話は衝撃的なものだった。
 母の妹・美桜さんと桜花の組長が付き合っていたなんて。

 俺には美桜さんという叔母がいたけど、わずか18歳でこの世を去っていたことは聞いていた。
 不慮の事故だと聞いていたが、まさか吉野組長と駆け落ちしようとしていたとは。


「美咲お嬢様と美桜お嬢様はそれは仲の良い姉妹でした。美咲お嬢様は美桜お嬢様を亡くされて以降、変わられました。
最愛の妹を失った悲しみを、桜花組への憎しみにぶつけるしかなかったのです」

「そうだったのか……」

「私のせいなのです……っ」


 急にふゆはボロボロと涙をこぼした。


「美桜お嬢様が亡くなる前日、お嬢様は自室でどこか落ち着かない様子でした。いかがされましたか、と尋ねると何でもない、ばあやいつもありがとうと仰って……私はそれが美桜お嬢様のお別れの挨拶だとは気づきませんでした。
私がもっと気づいていれば、もっとちゃんと話を聞いていれば、美桜お嬢様をお止めすることができたかもしれない……っ」

「ふゆのせいじゃないよ」


 ふゆのしわくちゃの手を握りしめる。


「誰も悪くなんかない」


 そう、誰も悪くない。
 敵同士でありながら恋に落ちてしまった二人も、許すことができない母も。

 そもそも両家は敵対する必要なんかなかったはずだ。
 商売仇であることに変わりはないけど、憎み合う必要はなかった。


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