幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。



「――私が満咲八重よっ!!」


 後ろで両手を掴まれたまま、私はそう叫んだ。


「こっちにいるのは吉野鏡花!別人だから!!」


 八重は「何を言い出すのか」と目で訴えていた。
 それでも構わず、喋り続ける。


「連れて行くなら私にしなさい!」

「……そんな嘘に騙されると思うか?」

「あんたたちこそ、間違えたとわかったらヤバいんじゃないの!?」

「んーっ、んーっ!」


 口を塞がれながら、八重は必死に訴えている。でもごめん、私は八重を守ると決めたから。


「私を連れて行って」

「はっ!なかなか威勢のいいお嬢ちゃんだ。まあいい、お前でもそれなりに価値はありそうだ」


 サングラスの男はグイッと私の顎を掴んで笑った。


「こいつを連れて行け」


 もう一人の男は八重を離し、私の腕を掴んで車に押し込んだ。


「き……っ」
「鏡花!!大丈夫だから!!」


 八重は泣きそうな表情をしていた。
 バン!と勢いよくドアは閉められ、車は発車する。車内で私は両腕、両足を縛られ、更には目隠しまでされた。

 どう考えても立派な誘拐だ。こいつら一体何者なのか、目的が何なのか知らないけど……八重が無事でよかった。
 八重のことは守れてよかった。

 私は大丈夫だから、心配しないで――。


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