ハンディファンと君と。
ミーンミーンミーン…
汗が噴き出る暑さの中、予定通り球技大会は始まった。
高校に入学して、約4ヶ月。
好きな人と同じ高校に入学して、喜びを噛み締めてた頃が懐かしい。
高校生になってクラスが離れて、未だ一言も話せていない。そんな自分が悔しいけれど、私のことなんかもう忘れちゃってるんだろうなぁ……。
ハンディファンで暑さをしのぎながら、最近は充電式のものが増えたことに今さらながら気付く。電池の出番が減ったみたいで、少しかわいそうな気もする。
きらきらと輝くような太陽の下で、ドッジボールをしている人たちの中に君を探す。
「あ、いた」
敵チームが投げたボールを少し変な体制で避けて、慌てて走る君。
「ふふっ」
その姿に思わず吹き出してしまう。
勉強は得意だけど、運動はちょっぴり苦手なとことか。
だけど50m走は光のような速さで駆けていくとことか。
クールを装ってるけど、ドアに足をぶつけちゃうとことか。
君が君だから、私はどんな時でも君を見つけられる。
2人で勉強会を開いて、ドキドキしすぎて教えてもらった内容が半分以上も右から左へ抜けていったあの日。
入試当日に「頑張ろうね」と言い合いながら、合格祈願のお守りと一緒にそっと恋愛成就のお守りを握り締めたあの日。
合格発表の日、2人とも合格していることを知ってハイタッチしたし合ったあの日。
全部全部、過去のこと。だけどもう一度、もう一度だけ、受験勉強の日々でもいいからあの時に戻れたら……。
ハンディファン片手に君のチームを応援していたら、急に人工の風が止まった。充電切れみたいだ。家に帰ったらハンディファン、充電しなくちゃ。
「ハンディファンは充電したらまた使えるようになるけれど、恋愛はそう何度もやり直しはきかないよね」
いつか君が言っていたセリフが、ふいに脳をよぎる。
もしかしたら、もしかしたら。私のたった一縷の望みは、君の心は充電中かもしれないってこと。
……まだ私はそのスイッチを、押すことができますか?
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