うちのクラスの吉田くん!

その15

 ある日。
 渡瀬、吉田と話していたときのこと。

「よっしーさ、今度『アーツ』の原作者兼脚本家のサイン会だって言ってたよね?やっぱり本人に目の前でサイン書いてほしいの??」

 俺は吉田に興味本意でそう聞いてみた。

 『アーツ』というのは吉田の一番好きな特撮番組のヒーローのことだ。

「よっしー、『アーツを下さい!』とか言うなよ~?“ある意味”誤解されるからな!」

 渡瀬が面白がりながら笑ってそう吉田に言う。

 ところが吉田は下を向きしどろもどろになりながら、らしくもない少し小さな声でこう返す。

「いやあ、その……会えたらさ……もちろんサインとかもほしいんだけどさ……」

 ……このよっしーの反応、まさか照れてる……?

 そして吉田はこぶしを握りしめて続ける。

「俺……どんなに俺がアーツが大好きか、原作者に熱意を伝えたいんだ!!一時間……いや、ニ時間あってもきっと足りない!!」

 聞いた俺と渡瀬は呆然。
 そしてすぐに吉田を説得に掛かった。

 このままじゃ、原作者が吉田の話を律儀に聞かされ続けるか、吉田が会場を追い出される……


 結局二人で吉田を小一時間説得し、翌日吉田は原作者に熱意を伝えるファンレターを書いたという。

 そのページ数はレポート用紙にしておよそ五十枚近くに及んだとか。

 しかしあとから気付けばあの吉田の様子なら、原作者を目の前に照れて言葉が出てくるのかどうか……


 “オタク”吉田は本人を目の前にすると照れが出るらしい、意外とシャイな男なのだった。
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