冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです

翌朝

 朝。全て生き物が目覚める爽やかな時間。
 私はダイニングテーブルに座り、向かいに座した社長に説教されていた。

「よくもあの状態の俺の前でのうのうと眠れたものだな」

 社長が青筋を立てて低く唸る。
 もちろん昨晩の事だ。幸い、私と社長の間に番関係は成立していなかった。
 私は椅子の上で身を縮め、思い切り頭を下げた。

「誠に申し訳なく……っ」
「俺がどれほどの理性と抑制剤を要して雨宮の介抱をしたか分かるか? 何度襲ってやろうと思ったことか」
「踏み止まっていただき誠にありがとうございます!」

 あの後、社長は気を失った私を身綺麗にして客室のベッドに放り込んだのだ。
 鉄壁の理性だ。その苦労を思うと、彼の怒りも甘んじて受けようという気持ちになる。

 社長は人差し指でコツコツとテーブルを叩きながら、

「対価がないと許せそうにない」
「運命の番になる以外なら何でもします!」
「異様に図太いな。……雨宮、ここに住め」
「……え?」

 ガバリと顔を上げる。眼前には、窓からの朝日に照らされた、極上に美しい笑みがあった。

「お前の掌に穴が開くのが先か、運命の番になるのが先か、楽しみだな?」

 悪魔は天使の姿を借りて現れる。
 激しい目眩を感じながら、私はガクガクと頷いた。
< 21 / 56 >

この作品をシェア

pagetop