冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
「確かに、そのような事例はございます。しかし先ほどご説明した通り、賠償額が五十億円を上回るような案件は全体の1%以下です。また、くだんの件につきましては取締役が粉飾決算などの不法行為に関わっていたため賠償額が高額となりました。こちらのD&O保険と会社補償契約では、不法行為に関与しなかった取締役であれば保証される制度となっておりますのでご安心ください」

「ああ、なるほど。自分達が悪いことしなきゃ良いわけですね」

 おどけたような取締役の口調に、ドッと場が沸く。社長の口元にも淡い笑みがよぎったのを私は見た。

 一通り笑いさざめいた後、社長が重々しく告げた。

「それでは、法務の提案を承認するものとする。ご苦労だった、雨宮」
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