君の記憶の中の僕、   僕の記憶の中の愛

キーホルダー

僕たちが出会ったのは、彼女が高校三年生の時、バイトを始めた先の先輩だったのが僕だった。
そして僕の後輩になったのが奈月 ハルだ。
高校三年生の春休み初日、バイト先で店長が紹介してくれたのがハル。
そしてそんな彼女に一目惚れしたのは僕だった。
「俺のかわいい姪っ子だから、お前ら手だすなよ!」と、念を押してくる店長の言葉は全く僕の耳には届かなかった。
そんなことより少し緊張したような表情を見せながらにっこりと笑う彼女がとてもかわいいと思ったんだ。
けれど、そんな僕の淡い恋心はずっと胸の奥にしまっていた。
そんな 間違っても「好きです。」なんて言えるわけがない。
僕はこの世で1番の臆病者だって言ってもおかしくない位 そんな勇気少しもわかなかった。
殆どのシフトが彼女と同じで、それだけで僕は幸せだったりした。
それは後に付き合い始めて、彼女が言った「あれね、お願いしてたの一緒にしてって」とはにかんだ。
どうやらハルもバイトし始めてすぐぐらいで僕の事を気になる存在として認識してたらしい。
けれど、僕とは違い、気になる存在から恋する存在になるにはもっと先の事だった。

ハルが来てから僕のバイト生活は光り輝く世界となった。
大学とバイトの日々に光が差し毎日が楽しかった。
最初は春休みだけの短期バイトだったのにもかかわらず、彼女はその後も休み関係なくバイトを続けるようになった。
僕は彼女の言動に一喜一憂する日々を送っていた。
オフィス街にあるバイト先の食堂屋は昼のランチタイムには、長蛇の列を作るほど人気のある店だった。
だから僕とハルとあと二人ぐらいの四人でフロアをするのだけど、それでも人が足りないと思ってしまう程の役2時間。
なのに、厨房は店長一人で仕切っているのだから、僕は心の底で店長は宇宙人だろなと本気で思ったりもした。
慌ただしいランチタイムを終えての休憩時間はハルとの距離を縮めていった。

彼女が卒業間近の頃ランチタイム終わり客の出入りが落ち着き各テーブルを片付けてる時に、急に

「藍沢先輩、、いつ告白するんですか?」

と、言った。

あまりに突然の事に僕の時間は止まった。

「せんぱ〜い、聞いてます?」

「あっ、うん、聞いてる。」

「先輩、私の事好きですよね?」

「・・・えっ、なんで?」

「違うんですか?」

テーブルを拭きながら背後の僕に淡々と話しかけてくる。

「なんで、そう思うの?」

「う〜ん、、勘です。」

勘でよく思い切ったこと言えるなと少し感心した。

「勘って、、、。」

感心したのとは裏腹に僕の口調で呆れた様になってしまった。
すると彼女はクルッとこちらに向いて言った。

「だって、私が先輩を好きなんですもん。あっ両思いだなぁって感じることが多かったから。」

と、初めて挨拶した時のように少しはにかんで言った。
すると奥で聞いていた店長が「手出すなって言ったのに、ハルから手出したら念押したの意味ないじゃん!」と
頭を抱えながら、やたら大きい独り言を叫んだ。
あとの二人も聞き耳を立てながら静かにしていたのに、耐え切れず声を出して笑った。
それを聞いたハルが微笑みながら僕に一歩距離を詰めた。
そして僕を見る目が待ってますと言わんばかりの視線を送ってきた。
目は口ほどに物を言うとは本当によくできた言葉だと思いながら僕はゴクリと唾を飲み決意した。

「僕の彼女になってください。」

「・・・はい。」

クスッと笑いながらハルは答えた。
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