忘れられた恋の物語
1番後ろの席を選んだ斗亜が私を先に席に座らせ、自分もその横に腰を下ろした。汽車が小さくて隣に並んで座ると、斗亜との距離が思ったよりも近くて横を見られなくなった。

お客さんがみんな乗り終わって汽車が出発すると、斗亜が私の顔を覗き込んだ。


「まだ恥ずかしいの?大丈夫だよ。」


斗亜はわかっていないのだ。今私がなぜ恥ずかしいのか。距離が近すぎるから顔を上げられないのに。


「ほら柚茉見てごらん!くまさんだよ!」


そう言って斗亜は、汽車の通り道に置かれているくまの置物を指差してニコニコ笑っている。

この人は、私を何だと思っているのだろう。自分が1つ年上だと知って私を年下扱いしているのだろうか。

モヤモヤした気持ちで斗亜を見上げると、彼が優しい笑顔で私を見つめていた。

その瞬間、時が止まったように感じた。

目が合ったままお互いにそらすことなく、しばらく見つめ合う。

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