過去の名君は仮初の王に暴かれる
やはり、王妃の部屋は、イヴァンカが処刑された時のまま、時間が止まってしまったようだった。
愛用したインク壺や羽ペンはそのまま机の上に置かれており、本棚にある本の並びまで変わっていない。――まるで、この主人をずっと待っていたかのように。
イヴァンカ・クラウンとしての人生は完全に捨て去ったつもりだった。しかし、この昔のまま時が止まってしまったような部屋が、エルゼの固く閉じたはずの記憶の蓋を、いとも簡単に開いてしまう。
暗い思い出ばかりではない、イヴァンカの眩い記憶。
幼少期に、王妃であった優しい母がこの部屋を使っていた。マンフレートと結婚し、王妃としてこの部屋を与えられた時の喜び。午後の穏やかな西日が差す部屋で本を読む心地よさ。
懐かしさで胸がいっぱいになりながら部屋を見回したエルゼはため息をつく。
ロレシオは心配そうにエルゼの肩に触れた。
「エルゼ、大丈夫なのか。医者を呼ぶか?」
「いえ、大丈夫です。ただ、……色々思いだしてしまって」
「……公務で疲れているんだ、部屋で休みなさい」
「ロレシオ様。この部屋は、いったいどうしたんですの? 大事な人のお部屋とおっしゃっていましたが……」
エルゼの問いに、ロレシオはひどくばつの悪そうな顔をした。長い沈黙の後、根負けしたロレシオが重い口を開く。
「……かつてこの部屋は、イヴァンカ・クラウン様の部屋だったんだ。どうやら、愚王マンフレートは、自分が処刑した妻の呪いを恐れてこの部屋をかたく鍵をかけて閉ざしたらしい。そのおかげで、この部屋はあのお方が生きた証がそのままになっていた。私は、この部屋をイヴァンカ様が使っていた時のまま、どうしても残したかった」
愛用したインク壺や羽ペンはそのまま机の上に置かれており、本棚にある本の並びまで変わっていない。――まるで、この主人をずっと待っていたかのように。
イヴァンカ・クラウンとしての人生は完全に捨て去ったつもりだった。しかし、この昔のまま時が止まってしまったような部屋が、エルゼの固く閉じたはずの記憶の蓋を、いとも簡単に開いてしまう。
暗い思い出ばかりではない、イヴァンカの眩い記憶。
幼少期に、王妃であった優しい母がこの部屋を使っていた。マンフレートと結婚し、王妃としてこの部屋を与えられた時の喜び。午後の穏やかな西日が差す部屋で本を読む心地よさ。
懐かしさで胸がいっぱいになりながら部屋を見回したエルゼはため息をつく。
ロレシオは心配そうにエルゼの肩に触れた。
「エルゼ、大丈夫なのか。医者を呼ぶか?」
「いえ、大丈夫です。ただ、……色々思いだしてしまって」
「……公務で疲れているんだ、部屋で休みなさい」
「ロレシオ様。この部屋は、いったいどうしたんですの? 大事な人のお部屋とおっしゃっていましたが……」
エルゼの問いに、ロレシオはひどくばつの悪そうな顔をした。長い沈黙の後、根負けしたロレシオが重い口を開く。
「……かつてこの部屋は、イヴァンカ・クラウン様の部屋だったんだ。どうやら、愚王マンフレートは、自分が処刑した妻の呪いを恐れてこの部屋をかたく鍵をかけて閉ざしたらしい。そのおかげで、この部屋はあのお方が生きた証がそのままになっていた。私は、この部屋をイヴァンカ様が使っていた時のまま、どうしても残したかった」