過去の名君は仮初の王に暴かれる
 何と答えるべきかしばらく考えあぐね、観念したロレシオはようやく口を開いた。

「……かつてこの部屋は、イヴァンカ・クラウン様の部屋だったんだ。どうやら、愚王マンフレートは、自分が処刑した妻の呪いを恐れてこの部屋をかたく鍵をかけて閉ざしたらしい。そのおかげで、この部屋はあのお方が生きた証がそのままになっていた。私は、この部屋をイヴァンカ様が使っていた時のまま、どうしても残したかった」
「……だから、私が王妃の部屋に移りたいと言ったのを却下されたのですね」
「その通りだ。この部屋は、このままでなくてはならない」

 エゴかもしれない。それでも、この部屋は残しておきたかった。ロレシオと、彼が愛した今は亡き王妃の儚い繋がりは、最早この部屋だけになってしまったのだから。
 理解できない、といった様子で、エルゼが首を振る。

「どうして、イヴァンカ・クラウンの部屋を残すのです……。イヴァンカは、この国の財政すら傾けた毒婦と言われているではないですか。陛下はイヴァンカの悪行を後世に伝えるために、この部屋を遺したのですね。それほどまでに、クラウン王朝へ恨みを……」

 エルゼの口調は、怒っているというより、むしろひどく苦しそうだった。
 ロレシオは激しく首を振る。今ここで否定しなければ、エルゼと一生わかりあえなくなってしまう。そんな気がしたからだ。

「エルゼ! イヴァンカ様は毒婦などではないのだ! この国は、イヴァンカ様を誤解している! あの人は……、いや、あの人こそがこの国の()()()()だったのだ!」

 その言葉を聞いたエルゼは、サファイアブルーの瞳を見開き、ほろほろと大粒の涙を流した。
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