過去の名君は仮初の王に暴かれる

エルゼの秘密

 エルゼ・ラグベニューには誰にも言えない秘密があった。彼女は、とある女の生まれ変わりであり、前世の記憶を産まれたときから持っていたのだ。

 この世界では、前世の記憶を持っていること自体、そう珍しいことではない。
 このサントロ王国では、ときどき前世の記憶を持っている子供たちが生まれるのだ。この国の宰相たちですら、数人は前世の記憶を持っているという。

――問題は、エルゼの前世がイヴァンカ・クラウンという名の女だったことだ。

 クラウン王朝最後の王女、イヴァンカ・クラウン。
 彼女は腐敗したクラウン王朝の象徴的存在だった。生まれながらの弱視を理由に、ほとんど公の場に現れなかったのにもかかわらず、である。

 イヴァンカ・クラウンはクラウン王家の純血性のある血統であったものの、王家の役割を放棄し、夫マンフレートに国政のことは全て任せきりで、陰で国庫が傾くほどの浪費を続けたとまことしやかに噂されていた。その上、誰にでも抱かれるような放蕩な悪女であったという。
 見かねた彼女の夫、マンフレート国王はイヴァンカを秘密裏に処刑し、かつて栄華を誇ったクラウン王朝の純血を継ぐ者は途絶えた。――と、歴史は語る。

 それを知ったエルゼは大きなショックを受けた。
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