ワインとチーズとバレエと教授【番外編】

5


大学2年になった秋、
コールセンターの
アルバイトを終えて
早朝の電車の始発で帰宅すると
めずらしく真理子が起きていて
ダンボールに荷物を詰めている。

「 一体、何事?」

理緒が尋ねると

「もうこの家を
売り払うことにしたの!」

「え…?」

母はいそいそと、
段ボールに服や靴を
詰めている。

「家を売り払うって、どういうこと?」

「とにかく売るの!
アンタも必要な荷物を
さっさと、このダンボールに
詰めてちょうだい!
引っ越し先はもう決めているから !」

と、真理子が指さした先には
大量の段ボールがあった。

「一体どういうことなの?
お母さん、借金でもしたの!?」

そう理緒が血相を変えて
聞くと、真理子は

「保険外交員をしてて、
取引先のお客に、いい話が
あるからと言って金を預けたの!
海外の投資家が年利35%も
増やしてくれるって!
担保として家も入れてたのよ!
でも、戻ってこないのよ!」

「…なんてことなの…
そんなお金があるなら
学費を支払ってくれればいいのに!」

「うるさいわね!
私だって生活があるんだし
まさか、こうなるなんて
思わなかったわよ!」

「騙されたのなら
警察に行くべきだわ!」

「警察に行ったって
取り合ってもらえないわよ!
相手はとんずらして逃げたし、
会社の登記簿はダミーだったの!」

「なら、なおさら
警察に行きましょう!」

法学部に行っている理緒は
多少、法律に詳しかった。

理緒は、真理子から詐欺の経緯を
聞こうとしたら

「子供のアンタがうるさいわね!
弁護士の真似事なんかやめて
さっさと、荷造りしてちょうだい!
すぐに別のアパートをに
引っ越すから!」

そう言って、1週間後、
ボロボロの木造アパートに
理緒と真理子は
引っ越すことになった。

おそらく母は投資詐欺に
あったのだろう。

そして貯金も全額溶かし
家も取られたのだろう。

そして理緒の家計は
ひっぱくしていった。

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