シリウスをさがして…

文化祭当日

日頃の行いが良いか、行事である高校の文化祭当日、眩しいくらいの太陽が照っていた。雲も風も吹かない。


 気温は少し秋ということもあって、肌寒かったが、午後にはちょうど良くなるだろう。


 メガネからコンタクトにして数ヶ月、だいぶこの生活にも慣れてきた。

 寝癖もつけないで、念入りにおしゃれにも気遣うこともできる。

 でも、今日だけは、おしゃれをしても、お化け役で変装しなくちゃいけないため、化粧の効果があるのは登校している時だけ。

 また化粧直しするだろうからポーチは忘れずに持っていこうとバックの中に入れておいた。


 すでに朝ごはんはすませておいた。
 出かける準備を終えて、家を出ようとした。

 最近は玄関掃除している父に会うのが恥ずかしくなって、裏口から静かに出ていた。

 母に「いってきます」と声をかけて裏口のドアをしめた。



 しゃがんで掃除をする父に見つからないようにバス停に向かう。


 輝久が手招きする。


「ほら、バス出るぞー。」

時間がギリギリだったようで、慌てて乗り込む。

「おはよ。」

 息が上がって呼吸がしにくい。

「おはよう。大丈夫か?」

話しながら、奥の座席に座った。

 今日は土曜日だったため、バスに乗るお客さんが少なかった。


「うん。大丈夫。今日、輝久って何するんだっけ。」


「昇降口前で出店だよ。焼きそばとクレープ作るから、時間できたら食べに来なよ。」

「うん。時間…作れるかな。」

「え、紬、何するんだっけ。お化け屋敷でしょ?そっちのクラス。」

「秘密。」


「俺、抜け出せるかな。隆介と一緒に行ければいいんだけど。」



「来なくてもいいよ。恥ずかしいから。」


「え、なんで。だって、隆介の話では、美嘉ちゃんがハロウィンの格好して店員するから、それが可愛いんだって言ってたから。紬もそんな感じだと思って…違う?」


「言いたくないかなぁ。」


 紬はお化け役で地味な作業だと思っていたため、あまり教えたくなかった。

表では働きたくないとは思っていたけれど、輝久にはバレたくない。

「んじゃ、行ってからの楽しみにしとくわ。」

 ご機嫌の輝久。あまり嬉しくない紬。


「そういや、昨日、放課後、康範先輩に会ったんだよ。今日の催し物で体育館でライブするんだって、そのチケット販売押し売りされて、買ってしまったんだよね。ほら、2枚。もったいないから一緒行かない?と言うか抜け出せるかお互い分からないけど…。時間は午後になってるね。」

「それって、康範先輩出るの?」

「…分からない。誰が出るか教えてくれなかった。紬と一緒で来てからのお楽しみだって。」

 紬は気持ち的には陸斗と行きたいと思っていたが、昨夜連絡取ったら用事あるから無理って断られた。何の用事かも教えてくれなかった。

 学校にいるはずで、一緒に校内周りたかったと思っていたのにと感じた。

 スマホをポチポチといじってラインを見返す。

「まぁ、いいや。輝久と行くよ。」

「え、何それ。仕方ないから行くって感じの返事。」

「えー、いいよって言ったのに?」

「いえいえ、一緒にいきましょう。紬さま。ぜひとも。」

 輝久から1枚チケットを預かった。

「お金は?」

「いいよ。おごるから。」

「んじゃ、焼きそばとクレープ買いに行くよ。」

「うん、そうして。」

「ありがとう。」


 何となく、心がじわじわとドキドキしてきた。

 自分のお化け役のお化け屋敷も気になるし、午後のライブも誰が歌ったり演奏するのか楽しみだった。

 中学生の頃は友達なんてまともにいなかった。

 輝久以外の友達が増えて、相手を喜ばすと思うと嬉しくて笑みがこぼれる。



ーーー

「陸斗~、今日のこと紬ちゃんには本当に言わなくてよかったの?」


「良いんだよ。俺は内緒で午前中に紬の様子見に行くの。お化け役するって言うんだから、気になってしょうがないんだよね。俺の活躍はサプライズにするとして、輝久に協力してもらうのはちょっとイラッとするけど、仕方ない。」


「サプライズね。喜ぶかな。紬ちゃん、本当は一緒に学校周りたかったんじゃないの?」

「そっか。全部終わったら、周る。」

「無理じゃね? 陸斗の出番って最後だからお店とか全部終わっているよ。」

「仕方ないよね。ライブ出演するか、文化祭デートをするか。陸斗が出るって言うからみんなチケット買ってくれたのに出ないのはまずいよ。詐欺だよ。」


 唇をぎゅっとかんだ。陸斗は紬と一緒にデートするのは諦めた。





一方その頃。

「紬ちゃん!最高じゃん。」

 1年2組の紬のクラスでは、お化け屋敷の準備が着々とすすんでいた。紬は白いワンピースを着せられて、頭にはすごい長いストレートの黒い髪のカツラをかぶっていた。

 メイクはまるで口避け女のような赤い口紅をベッタリを塗られていた。
 目には紫色が入ってるカラーコンタクトを入れている。

 黒のインナ入れたーできつめのアイメイクをしていた。

 普段化粧すると言っても、基礎化粧品の化粧水と乳液つけて、CCクリームをファンデ変わりに塗り,眉毛を剃ってマイブロウで描くくらいの,薄化粧しかしない紬にとって、とても違和感を感じる。

 百均のお店で買っておいた大きい鏡を机の前に置いて自分の顔を再確認した。

 隣では男子の田中がゾンビのメイクをして、こちらを見ていた。服装は深緑のシャツにボロボロの黒めジーンズを履いていた。様になっている。

「谷口さん…。凄いね。映画に出て来そうだわ。」


「あ、ありがとう。メイクや衣装が上手だからだと思う。私は何も…。渡辺さんと白石さんが用意してくれたから。」


「私たちはあくまで衣装や顔を作る側だよ。紬ちゃんがあとはお化け役を演じてもらえれば、このお化け屋敷は大成功だよ。頑張ってね。」

 渡辺美由紀と白石瑞季は、紬の横にたち、衣装とメイクの最終確認した。

「お化け役の谷口さんいる??」

「はーい。ここにいます!」

 美由紀がが代わりに返事してくれた。
 学級委員長の#東谷官九郎__あづまやかんくろう__#が来た。

「このたび、我が1年2組のお化け屋敷総監督兼学級委員長の東谷です!!」




「いや、みんな知っているし。」



「自己紹介はさておき、今日やるお化け屋敷の説明させていただくと、入り口入ってすぐは、カフェスペースになっていてハロウィン風お菓子を提供しています。そして、店員はもちろん我クラスのマドンナ的存在の森本美嘉さんが座席にご案内してもらう形です。お化け屋敷を楽しむ方は受付に立っている井上さんに声をかけてもらってお屋敷の中にあるろうそくを拾ってきてくださいとミッションを与えます。火事になると大変なので、LEDタイプを用意しました。祭壇のような奥にはボックスがあるので、そこにLEDライトのろうそくをたくさん置いてあります。そこを目指して頑張ってもらいます。」



 東谷監督は学級委員長から脱皮して監督になれたことにすごく誇りを持っていた。LEDライトは全て自費で用意している。ざっと20本はあった。





「おばけ屋敷の中は畳を何畳かひかせてもらってます。我が家の和室から拝借して来ました。そして、そこにはいくつかのトラップを仕掛けております。美術部からおかりした石膏像、化学室に置いてあった人体模型像とガイコツ、音楽室に飾ってある音楽家の額縁写真を3枚置いてます。ベートーヴェン、モーツァルト、バッハです。不気味に青白く光ります。もちろん教室内は暗転にしてもらいます。いつも以上に黒い分厚いカーテンをつけています。演劇部からお借りしました。おおまかな流れでどんな感じに怖がらせるかは入ってからのお楽しみです………ヒヒヒ。」


「いや、今,1番お前が怖いわ!」


 クラスで1番目立ちたがりの大崎智也が叫ぶ。


総監督の東谷は黒い服を体にまとって死神のようにクラスメイトたちを怖がらせた。

 
 内容はとても本格的だった。


小声で監督が話す。



「谷口さん。君が登場する手前でお客さんを怖がらせるためにこの透明なスライムを何個か畳の上に置いておきます。中に入る時は皆さまに靴を脱いで進んで貰うので感触がまた、ゾクゾクするかと…。真っ暗ですからね。下からズルズルと進む時に間違って触らないようにくれぐれもお願いします。」



「はい。分かりました。」



すでに話を聞いていた田中は手にスライムを持っていた。



 ゾンビ感を出すために腕からスライムを垂らす作戦だ。




「でわでわ、模範演技として、皆さんにお試しで中に入っていただきます。井上さん、よろしくお願いします。」



 紬は衣装やメイクの準備を終えると,素早く田中と一緒に定位置についた。



 緊張して足が震える。



「谷口さん、お互いお化け役、がんばろうね。」



「は、はい。」


 どろどろしいホラー映画に出てきそうな音楽が流れてくる。


 美嘉たちは外野から声や音を聞いていた。


 女子たちの悲鳴と男子の叫び声が響き渡る。



クラスのメンバーでさえもこの盛り上がりで、美嘉たちは満足していた。




「谷口さん…あんな特技があったんだね。陰気な感じが本物っぽかった。凄い怖いよッ。」



 戻って来た女子が紬のことを絶賛していた。

 案外、お化けが大好評だったようだ。


「あ、あれで良かったのかな。特に話さなかったんだけど…四つん這いになってゴキブリのように進んで、目が合った瞬間に、上から下に見下ろしてくださいって監督の東谷くんに言われて…その通りしただけ……大丈夫だったかな。」

「紬ちゃん、ホラー映画の女優さんの才能あるかもしれないね。凄い!」


「隠れた才能…。」

「陸斗先輩、紬、見たらどう思うんだろう。」

 瑞季はボソッと呟く。


「反応が気になるね。」

「確かに。」


 美由紀と美嘉は、2人同時に答える。

「美嘉の衣装は、隆介が黙ってないかもね。胸が少し見えてるから隠したくなるかも…。ごめん、そう言うデザインにしてしまった。」


「そうなのよ。まるでキューテ○ハニーみたいになってるし。こんなカフェ店員いる?ハロウィンで後ろにコウモリみたいな羽根になってるけど。大崎くんなんて、ギャルソンかと思いきや、ドラキュラでしょ?」

 
 美嘉は恥ずかしそうに腕で胸を隠す。


「似合う?」

 智也は体を向けた。

「そこそこね。かっこいい。」

「棒読みなんすけど。」


 美嘉は棒読みで答えた。




「まあまあ、皆さん、こんな感じぇ文化祭盛り上げて行きましょ!」


「おーーーーー。」


円陣を組んで手を天に翳した。
何だか体育会系になっている。

クラス一丸となって
盛り上がっている。




ーーー


「これ、チューニング合ってる?」


 陸斗はギター片手に音響担当の康範に聞く。


「あー、ちょっと待って今やるから。ギター貸して。マイクのスタンド高さ合わせてて!」



 陸斗は言われたまま、マイクスタンドを自分の顔の高さに合わせる。演奏はできるが、チューニングに関しては康範に任せていた。


「陸斗ー、歌う時音外すなよ?」



 ドラム担当の#鈴木理__すずきおさむ__#が言う。


「気をつけます~。カラオケで慣らしては来たんだけどさ。あん時は調子良かったけどな。」


 陸斗はマイクテストする。少し掠れた声が出た。
 それぞれの楽器が鳴り響く。


 アコースティックギター、ベース,ドラムの3人、担当していた。陸斗はギターと歌の兼務だった。



「歌う相手が違うってか。良いよな、彼女いて。」



「俺も練習は上手く行ってたけど、大勢の前は初めてだから緊張するわ。」


 ベース担当の#佐々木悠樹__ささきゆうき__#が静かに言う。


「はい、チューニング完了。陸斗試しに音出してみて。」


 康範はまるでライブスタッフのように手際が良かった。そう言う仕事に憧れていた。



「うん、大丈夫。調子いい。サンキュー! 1回、練習してみる?」

「よっしゃ、やってみよー。」


 ドラムの理は、バチでリズムを刻む。陸斗はタイミング合わせて歌い始めた。


 文化祭のライブは午後の2時開演だった。

 その前に演劇部の発表が午前10時からあったため、練習時間が少なかった。

今は午前9時。
わずか音合わせは約15分だけだった。

9時半には、マイクや楽器を端によけて、退場しなければならない。

それでもお客さんが入ってない体育館の外で、陸斗達のバンド演奏を聴きつけて、出入り口で聴く生徒たちがいた。


 黄色い声援が響き渡る。


 
 午後の開演が楽しみだった。
< 38 / 74 >

この作品をシェア

pagetop