四月のきみが笑うから。



「塾の回数、増やしたから」


 お母さんからそんな言葉をかけられたのは、朧月を見た三日後のことだった。

 あまりに突然のことで、頭が真っ白になる。


「増やしたって、どういうこと?」

「言葉通り、そのままよ。週三回から五回にしただけ。部活もやってないし、それくらいできるでしょ」

「……そんな」


 どうして勝手に決めてしまうの。"それくらい"って、そんなに軽々しく言わないで。

 わたしにはわたしのペースがあって、それをかき乱されることがいちばん嫌いなのに。


「わたし、そんなにいけないよ」


 言葉が口をつく。
 驚いたように目を丸くするお母さんは、「瑠胡が言い返すなんて珍しいわね」と少しの怒りを言葉に混ぜた。


 自分でもびっくりした。
 今までのわたしは、すべてに従って生きてきた。

 親の言うことは絶対。
 そんな暗黙のルールがあったから。


「どうしていけないの? 何か部活でもする気になった?」

「そういうわけじゃない、けど」


 首を振った途端、お母さんの顔が険しくなる。

 まるで獲物を見るような、心の奥を見透かすような、鋭く冷たいものに変わった。
< 64 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop