四月のきみが笑うから。
春愁

 それからまたしばらく、先輩は駅には現れなかった。


 クラスも、部活のことも、何も知らないわたしはただ、駅で会える日を心待ちにしているしかなかった。


(きっと勉強が大変なんだろうな)


 わたしに構っている暇などないのだろう。

 もう五月に入り、毎日毎日、受験まで日が進んでいく。一日たりとも無駄にしてはいけないと、かつての先輩インタビューで誰かが言っていた。誇張ではなく、本当にその通りなのだろう。


 ブルーモーメントを見たいとは言ったものの、それが実現する日がくるのかどうかなんて、わからない。


 先輩と一緒にいたい。


 そんな気持ちを抱くのとは裏腹に、そんなのは無理だともう一人の自分が告げていた。


(せめてブルーモーメントを見るときまで。そう、決めたから)


 付き合いたいとか、四六時中一緒にいたいとか、そんなことは言わないから。

 せめて一日の終わりに会話をして、元気をもらいたい。


 それすらわがままだと言われてしまうのだろうか。



 一人で電車に揺られながら、窓の外を見遣る。

 紫と、ピンク。


 遠くにいくほど薄くなって、グラデーションになった雲がぷかぷかと浮いている。
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